日本平和学会平和賞選考委員会報告


平和賞:特定非営利活動法人 日本国際ボランティアセンター(Japan International Volunteer Center)

渡邉英徳(首都大学東京システムデザイン学部准教授)


平和研究奨励賞:松元雅和(関西大学政策創造学部准教授)

受賞対象著作:「現実主義/平和主義理論における理想と現実」(『平和研究』第43号、2014年10月刊)

 『平和主義とは何か:政治哲学で考える戦争と平和』(中公新書, 2013年3月刊)


授賞理由 特定非営利活動法人日本国際ボランティアセンター

  特定非営利活動法人日本国際ボランティアセンター(以下では、JVC)は、インドシナ難民支援を契機に、1980年に設立された日本の開発・国際支援NGOの草分け的存在であることは言を俟たない。現在では、全国に1000名を超える会員を擁し、自らの活動についても組織だったガバナンスを展開する一方、支援対象としては、カンボジア、ラオス、タイ、南アフリカ、パレスチナ、アフガニスタン、スーダン、イラク、朝鮮半島、東日本大震災被災地を数える。さらに、農業支援、教育・人材育成、医療支援・保健衛生、アドボカシーなどにおいて、粘り強く現地に根を張った活動を展開してきた。また、各地の問題に関して分析し、政策提言を行う活動も積極的に展開してきた。

 その活動に対しては、既に、アフリカ被災民救援活動貢献についての感謝状(外務大臣, 1985年)、国際協力推進についての感謝状(外務大臣, 1988年)、東京弁護士会人権賞(東京弁護士会, 1988年)、朝日社会福祉賞(朝日新聞社, 1989年)、毎日国際交流賞(毎日新聞社, 1992年)、内閣総理大臣賞(内閣総理大臣, 1995年)などが与えられ社会的にも高く評価されているところである。

 平和学会平和賞選考委員会としては、これらの既に社会的に高い評価を受けている活動に加えて、JVCおよびその構成メンバーによる日本社会における政策提言活動にも着目した。とりわけ、日本において進められている安全保障法制の転換によって、自衛隊が紛争地域に深く入り込み後方支援活動を行うことを可能とすることがもたらす問題点や危険について、積極的な発言・提言を行ってきた。特に、現場における活動を通じた経験を紹介するとともに、そうした経験に基づいた分析を日本社会に対して積極的に示すことを通じて、日本における平和・安全保障に関する批判的な検討を可能とした。その点で、平和に関して大きな貢献をなしたといえる。その成果は、谷山博司編著『「積極的平和主義」は、紛争地に何をもたらすか?!』(合同出版、2015年)にもまとめられている。こうした活動は、活動現場における経験を日本社会に還元する政策提言という分野におけるNGOの重要性という新しい側面に気づかせることにもなった。

 以上のように、選考委員会としては、JVCがこれまで長年にわたり展開してきた多様な現場における平和構築活動のみならず、日本社会に対する政策提言活動を高く評価して、日本平和学会平和賞を授与することが適切であると判断した。


授賞理由 渡邉 英徳 (首都大学東京システムデザイン学部准教授)

 渡邉英徳氏は、首都大学東京システムデザイン学部准教授として、システム開発とデザインの分野で顕著な業績を上げておられる。

 日本平和学会平和賞選考委員会としては、同氏のさまざまな活動のうち、とりわけ、ナガサキ・アーカイブ(http://nagasaki.mapping.jp/p/nagasaki-archive.html, 2010年公開)、ヒロシマ・アーカイブ(http://hiroshima.mapping.jp/index_jp.html, 2011年公開)に始まる一連のアーカイブ活動を高く評価している。

 これらのアーカイブでは、これまで蓄積されてきたさまざまな原爆被害の証言やデータが、ITテクノロジーと融合され、文字情報、画像・音声情報、地図位置情報などの連携のなかで、立体的かつ実感ある形で伝えられることとなった。さらに、そうしたテクノロジーとの融合によって、被害の実態がわかりやすくしかも日常的にアクセスしやすい形で表現されている。こうしたアーカイブ化の活動は、被爆者の高齢化が進み、直接の証言を聞くことが徐々に困難になりつつあるなかで、被爆の実態、被害の実相を記憶にとどめ、世界に広く共有する上で大きな貢献をなしていると評価できる。

 さらに、こうしたアーカイブ化の活動において、同氏の研究室に所属する大学生のみならず、広島、長崎の高校生が積極的に活動に参加し、研究者、大学院生、大学生、中学校高校生の間の共同活動が組織化されているという点も特筆される。アーカイブという結果のみならず、アーカイブ化という過程において、参加と学習と啓発という面でも大きな意義があったと評価できる。

 なお、渡邉氏は、ナガサキ・アーカイブ、ヒロシマ・アーカイブに引き続き、「沖縄平和学習アーカイブ」(http://peacelearning.jp/ge.html、2012年作成)、「東日本大震災アーカイブ」http://shinsai.mapping.jp/index_jp.html、2012年作成)、「アチェ津波アーカイブ」(http://aceh.mapping.jp/index.html、2013年)を作成し、既存の記録を収集するとともに、多様な期間、研究者、学生、生徒などに積極的な関与を可能とする形で、戦争被害や災害被害の記録化と、記録のアクセス可能性の向上を実現してきた。

 こうした活動は、とりわけ戦後70年=被爆70年という節目において、被爆体験を記憶と記録にとどめるとともに世界に広く共有していくという点で、平和への貢献として顕著であり、日本平和学会平和賞を授与することが適切であると判断した。

 参照 http://www.tmu.ac.jp/stafflist/data/wa/903.html

    http://labo.wtnv.jp/


平和研究奨励賞:松元 雅和(関西大学政策創造学部准教授)

受賞対象著作:

「現実主義/平和主義理論における理想と現実」(『平和研究』第43号、2014年10月刊)

『平和主義とは何か:政治哲学で考える戦争と平和』(中公新書, 2013年3月刊)

 松元雅和氏による『平和主義とは何か:政治哲学で考える戦争と平和』(中公新書, 2013年3月刊)は、政治哲学の立場から戦争と平和に関する多様な立場を整理しつつ、平和主義に関して立体的な検討を行った著作である。選考委員会としては、同書が、平和主義に関して、個人的心情や宗教的信条に基づくことの多い絶対的平和主義のみならず、むしろ、条件づきで平和を支持する政治的議論としての相対的平和主義(本文中では「平和優先主義」)が、現代世界の多様な問題を解決する上でどのような示唆を与えているのかを、柔軟な発想と自由な知性を発揮しつつ検討している点を高く評価した。さらに、平和主義を平和を愛好する議論として位置づけるのではなく、現実の問題に直面する具体的な思惟の活動と位置づけるとともに、平和主義に対抗するさまざまな議論や理論的立場と対置・対話させることで立体的に描いている点も高く評価している。

 文体が平易である一方で、その思索がカバーする範囲は、アウグスティヌスからガンジー、そして現代の国際政治理論研究者まで、あるいは、平和主義のみならず、正戦論、民主的平和論、人道的介入論などときわめて広範である。また、近年の国際政治研究あるいは思想史研究において、両者の領域を交錯させることが大きな潮流となっているが、本書はそうした潮流における大きな成功例と位置づけることも可能である。

 合わせて、同氏による「現実主義/平和主義理論における理想と現実」(『平和研究』第43号、2014年10月刊)は、国際政治学における現実主義も理想主義的とされる議論と同様に理想状況において妥当性を主張しているのみである点を明らかにしつつ、理論的な研究が現実において貢献することの意味をあらためて指摘している点で大きな示唆を与えるものとなっている。

 選考委員会としては、松元氏のこれらの業績における思索の深さと平和研究への貢献を高く評価するとともに、今後のますますの研究の発展を期待して、平和研究奨励賞を授与することが適切であると判断した。