歴史に逆行する「特定秘密保護法案」に反対し即時廃案を求める声明

 私たちは、国際社会における戦争の原因・背景を解明し平和を実現する条件・方法を探求する研究者として、今国会に政府与党が早期成立をめざして提出し、現在参議院で審議中の、特定秘密保護法案に対して強い危惧の念を持っています。

 以下に、この特定秘密保護法案が持つ深刻かつ危険な問題点を列挙します。

 

1.法案の作成過程が不透明で国会での審議が拙速なこと

 法案の中身を定めた有識者会議の議事録が作成されておらず、国民の意見を聴取するパブリックコメントの期間も通常の半分(15日間)という短期間でした。また、そこで出された9万件のパブリックコメントの約8割を占めた反対意見も完全に無視するかたちで国会に法案が早急に提出されたのも異例でした。衆議院特別委員会および本会議での超短時間での審議打ち切りと強行採決も非民主 的といわざるを得ないやり方でした。

 

2.「特定秘密」の定義と範囲が曖昧なこと

 「何が秘密かも秘密だ」と指摘されているように、「特定秘密」が明確に定義されていないために、 その範囲が恣意的に拡大される危険性がぬぐえません。具体的には、外交・防衛関連の情報(TPP 交渉の内容、米軍や自衛隊の装備・訓練・作戦活動など)だけでなく、原発事故関連の情報(汚染・ 被曝の実態など)や刑事司法分野での捜査・裁判関連情報なども秘匿されることが大いに懸念されます。

 

3.「特定秘密」の指定・判断を行う者が「行政機関の長」とされていること

 主権者である国民の代表者である政治家ではなく官僚によって恣意的に「特定秘密」の指定・判断 が行われるおそれがあります。

 

4.処罰の対象が広範囲で、処罰を受ける者が国家・地方公務員に限定されていないこと

 処罰の対象者は、公務員の他に、メディア関係者(特にフリージャーナリスト)や政治家、裁判官、 弁護士、研究者などの専門家、そして一般市民にまで及ぶ可能性があります。その結果、取材報道の自由だけでなく、国民の知る権利や国会の国政調査権まで侵害・制約される危険性が生じかねません。

 

5.「特定秘密」の指定期間が事実上無限定であること

 国民・市民による監視や後世の歴史家による検証が不可能な「永遠の秘密」が作り出されてしまう 危険性があります。

 

6.「特定秘密」の指定・判断の是非を問う独立した第三者機関の不在

 独立した外部機関による審査手続きを欠いているため、当該「行政機関の長」、実際には外務・防 衛官僚だけでなく、法務官僚(公安警察や公安調査庁の役人を含む。)らが広範な裁量権を独占し、その権限行使を規制することがきわめて難しくなります。

 

 この他にも、「特定秘密」を取り扱う者の適否を判断する適性評価制度が事実上の「思想調査」と なって公安警察などによる国民の監視が行われる危険性や、国民への情報秘匿が徹底される一方で、 外国や国際機関への「特定秘密」の提供が妨げられないことなどの問題点があります。

 

 この法案は、今国会ですでに可決された国家安全保障会議(NSC)法とセットになったもので、集団的自衛権行使の政府解釈の変更(来年の通常国会に提出される予定の国家安全保障基本法案)も含め、戦後平和主義を逆転させ、常に戦争に備える「安全保障国家」をめざす安倍政権の政策の一環と いえます。

 また、外交、防衛だけでなく、特定有害(スパイ)活動の防止、テロ活動の防止など4分野に関する情報を「特定秘密」として指定し、その漏洩・取得を行なう行為を重い処罰によって禁止しようとするものでもあります。

 現在の日本では情報公開と文書管理における制度上の不備が放置されながら、国民の個人情報が国家によって一元的に管理されやすくなっており、個人のプライバシーを守ることが著しく困難となっ ています。そうした状況の中で、特定秘密保護法案を導入することは、政府・行政機関の情報公開の強化・拡大に向かう世界の大きな歴史的流れに逆行するものであると言わざるを得ません。 この法案が成立すると、取材・報道の自由が制限を受けるばかりでなく、国民の知る権利を深刻に損なう重大な事態が生じることが懸念されます。それは、息苦しい戦前のファシズム国家・暗黒社会への回帰にも等しいものです。私たちは、戦前戦後の歴史、あるいは自国が明治維新以来歩んできた道をもう一度批判的に学び直す必要があります。

 この法案は、言論と思想を統制し、戦争・警察国家への移行を促すことで、国民の基本的人権と憲法の掲げる平和主義を根本的に否定するおそれを有しています。私たちは、このような内容を持つ特定秘密保護法案に反対の意思を表明するとともに、その廃案を強く求めます。

 

2013 年 12 月 5 日

日本平和学会会員有志一同

(秋林こずえ、阿知良洋平、阿部浩己、阿部太郎、安部竜一郎、ロニー・アレキサンダー、石井正子、 石川捷治、石田勇治、礒村英司、市川ひろみ、伊藤武彦、稲木哲郎、内田みどり、内海愛子、近江美保、大串和雄、大津留(北川)智恵子、大平剛、奥田孝晴、奥本京子、小田博志、嘉指信雄、綛田芳憲、片野淳彦、菅英輝、木戸衛一、木下直子、君島東彦、木村朗、清末愛砂、久保田貢、熊野直樹、黒田俊郎、五野井郁夫、小林誠、小峯茂嗣、齋藤百合子、佐々木寛、佐伯奈津子、佐竹眞明、佐渡紀子、里井洋一、篠田英朗、芝野由和、島袋純、清水耕介、清水奈名子、首藤もと子、妹尾裕彦、徐勝、高橋博子、高原孝生、高良鉄美、竹内久顕、田村慶子、土佐弘之、戸田真紀子、直野章子、名嘉憲夫、浪岡新太郎、新津厚子、蓮井誠一郎、林博史、平井朗、藤岡登、藤岡美恵子、藤村一郎、古川純、古沢希代子、堀芳枝、本田順子、本田宏、前田幸男、前田輪音、真喜屋美樹、松島泰勝、毛利聡子、最上敏樹、森善宣、森川純、山口剛史、山根和代、湯浅一郎、横山正樹、吉井美知子、吉田信、吉村季利子、渡邉智明)

ダウンロード
statement2013.12.5.pdf
Adobe Acrobat ドキュメント 246.0 KB