国連経済制裁の変則的適用を巡る学説の展開と問題点―安保理の「任意的経済制裁」に関する国際法上の議論を中心に―

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2016年6月25日

公共性と平和分科会

 

国連経済制裁の変則的適用を巡る学説の展開と問題点

―安保理の「任意的経済制裁」に関する国際法上の議論を中心に―

 

名古屋大学大学院

国際開発研究科

水谷 元海

 

キーワード:経済制裁、国際連合、集団安全保障

 

1.はじめに

(1)「任意的経済制裁」とは何か

 安保理は、冷戦期、南ローデシアおよび南アフリカに対し、法的拘束力を有する決定に基づく経済制裁を発動する前に禁輸措置を勧告した。安保理の勧告に法的拘束力はなく、勧告を実施するか否かは加盟国の任意である。これらの経済制裁を指す用語として「任意的経済制裁(voluntary economic sanctions)」が用いられる(Doxey 1987, p.32)。「任意的経済制裁」は、冷戦期における安保理の政治的妥協により生まれ、実行の中で発展してきた(White 1990, p.80)。国連の経済制裁は、実施が任意であると解された連盟の経済制裁の失敗を教訓に、第39条の下で発動の集権化、第25条・第48条の下で実施の義務化がなされた。しかし、「任意的経済制裁」は、加盟国に実施を義務付けることなく発動され、その結果、加盟国は経済制裁の実施に相当の裁量を有する。憲章起草者が本来想定していたものとは程遠い、変則的な経済制裁の適用が「任意的経済制裁」には見られる。

(2)「任意的経済制裁」研究の必要性

 国連の経済制裁研究は、「義務的経済制裁」を中心としてなされてきた。現在では、経済制裁に伴う人権侵害や一般市民への被害を回避することが課題であると認識され、スマート・サンクションに多くの関心が寄せられている。一方、「任意的経済制裁」は主として冷戦期の実行であると理解されており(尾崎 2010, p.20; Conforti & Focarelli 2010, p.254)、現在ではほとんど研究対象とはなっていない。しかし、今日までに安保理が「決定」以外の用語を使用し経済的措置を発動した事例は15件存在し、その内訳は、国連創設から冷戦終結までの45年間は6件であるのに対し、冷戦後から今日までの26年間は9件であり、その頻度は増加傾向にある(→参考資料)。また、近年では安保理により勧告される措置がより強力なものになってきており、人道上の問題を生じさせている。2010年の対イラン経済制裁決議1929では、既に「義務的経済制裁」として安保理・制裁委員会が指定した対象への資産凍結措置が発動されている中で、新たに資産凍結措置を含む大幅な金融制裁の勧告がなされた。この勧告を受け欧米諸国や日本はイランへの金融制裁を強化し、その結果、イラン国民へ経済制裁の被害が拡大した。スマート・サンクションは、一般市民への被害を避けるため、国連による制裁対象および制裁方法のコントロールの下で実施される。「任意的経済制裁」は、加盟国に実施の裁量を与えるため、そのコントロールがほとんど及ばない。ここに、現代において「任意的経済制裁」の法的規制の状況を問い直す必要性が存する。

(3)報告の目的

 ほぼ全ての学説において、「任意的経済制裁」は憲章上合法であると説明される。しかし、論者によって「任意的経済制裁」の憲章上の根拠や法的効果についての見解は異なる。本報告では、これらの点に関する既存の学説の比較検討をおこない、学説の問題点および今後取り組むべき課題を明確にする。

 

2.「任意的経済制裁」の憲章上の根拠

(1)第36条1項説

安全保障理事会は、第33条に掲げる性質の紛争又は同様の性質の事態のいかなる段階においても、適当な調整の手続又は方法を勧告することができる。

 最も初期の段階で「任意的経済制裁」の憲章上の根拠として主張されたのは、憲章第6章に位置する第36条1項である。この説は、対南アフリカ制裁決議181の勧告を検討したDugardにより提唱された。決議181以前に安保理は憲章第7章措置をとる前提条件である「平和に対する脅威」等の存在認定(以下、第39条の認定)をおこなっておらず、第6章の規定が唯一の根拠とされた(Dugard 1996, p.50)。

(2)国際機構の権限に関する一般理論説

 しかし、「任意的経済制裁」の根拠として憲章第6章の規定に依拠することには以下の反論がなされた。第一に、憲章第6章の勧告は、紛争当事者にのみ向けられる。第二に、禁輸措置はその性格上、第6章の「平和的解決」には含まれない。第39条の認定がなされる前の法的根拠について、「後に生じた慣行」の理論(中谷 1987, p.50)や「黙示的権限」の理論(Gowlland-Debbas 1990 ,pp.381-389)が持ち出される。

(3)第39条説

安全保障理事会は、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし…。

 一方、Krischは、第39条の認定がおこなわれた場合の安保理の勧告による禁輸措置ついては、憲章第7章の第39条を根拠として挙げる(Krisch 2012c, p.1329)。中谷は、第39条の「勧告」の受範者及び内容に関しては特に制限がないと述べ、同様の場合は39条で説明する(中谷 1987, p.56)。

(4)第41条説

安全保障理事会は、その決定を実施するために、兵力の使用を伴わないいかなる措置を使用すべきかを決定することができ、且つ、この措置を適用するように国際連合加盟国に要請することができる。…

 第39条説に対する批判も存在する。Confortiらは、第39条の「勧告」は第6章の「勧告」と同様に、「平和的解決」を目的とするものに限定されると指摘する。そこで彼らは、「任意的経済制裁」を措置に勧告の性格を与えて強度を下げる「決定」と捉え、第41条で説明する(Conforti & Focarelli, 2010 p.253)。藤田は、第41条から、安保理がボイコット措置を勧告することは妨げられないとする(藤田 1998 p. 337)。

 ただし、藤田は第39条の認定後の「任意的経済制裁」の法的根拠にのみ言及しているのに対し、Confortiらは、そのような明示の認定がなされていない場合の「任意的経済制裁」も含めて第41条で説明する。その理由は、第一に、安保理の行動の法的性質は前文ではなく本文できまる、第二に、安保理の高度の政治性を考慮する必要性があるというものである(Conforti & Focarelli, 2010 p. 178)。

(5)小括

 第39条の認定後の「任意的経済制裁」の法的根拠としては、第41条説が有力な反論も無く最も説得的である。ただし、第39条の認定前の「任意的経済制裁」の法的根拠には問題が残る。Confortiらのように安保理の政治的性格を考慮し、明示の第39条の認定がないまま第7章措置を発動できるとの説明には同意できない。国際司法裁判所(ICJ)は、国連加盟承認の条件事件勧告的意見において、国連機関の政治的性格は、当該機関の権限および判断基準についての規定の遵守から当該機関を解放しないと述べる(ICJ 1948, p.65)。また、彼らの見解に従えば、安保理は紛争のいかなる段階でも強制措置が可能となり、憲章が紛争の段階に応じ、安保理に異なる権限を与えた意味が消失する。

 第39条の認定前の「任意的経済制裁」の法的根拠については、国際機構の権限に関する一般理論説が主張されている。ただし、「黙示的権限」の理論に依拠できるのかは疑わしい。同理論は、憲章上明文規定を欠くが、国連の目的達成に不可欠な権限の根拠を提供する。しかし、同理論が示された損害賠償事件勧告的意見でICJは、憲章解釈から起草者の意図を汲み取り、有することが当然と考えられる権限を導いたのである(ICJ 1949, p.179)。起草者が勧告によって経済制裁を、まして第39条の認定前に、発動する権限が安保理にあると意図していたとは考えられない。また、ICJは、憲章に関連規定がまったく欠けている権限にのみ同理論を用いてきた。「憲章の明文規定をいわば出し抜くために援用できる」根拠は存在しない(松井 1993, p.88)。そこで、この問題の唯一の焦点は、「後に生じた慣行」の理論の援用可能性である。しかし、既存のどの学説も、同理論援用の条件である「任意的経済制裁」の慣行および加盟国の一般的受容の存在を検討してはいない。39条の認定前の「任意的経済制裁」の法的根拠の問題は未解決である。

 

3.「任意的経済制裁」の法的効果

(1)第103条の適用否定説

国際連合加盟国のこの憲章に基づく義務と他のいずれかの国際協定に基づく義務とが抵触するときは、この憲章に基づく義務が優先する。

 「任意的経済制裁」は安保理の勧告に基づき、その実施は加盟国に義務付けられていないため、第103条の文言上、同条の適用は困難である。また、安保理が勧告によって本来であれば違法である行動を合法とする権限は、憲章上明示されてはいない。勧告を実施する加盟国は、条約上の義務から解放されないと指摘される(Fawcett 1965-66, p.121; 藤田 1998, p.337; Krisch 2012b, p.1296)。ただしKrischは、安保理の勧告ではなく「授権」による経済制裁について、第103条の適用を肯定する(Krisch 2012, p. 1262)。

(2)第103条の適用肯定説

 安保理の勧告による経済制裁の場合にも第103条の適用を肯定し、加盟国は条約上の義務から解放されるとする学説が存在する。DugardやSarooshiは、朝鮮戦争の際に設置された集団措置委員会(Collective Security Committee 1951, p.33)や国家責任法の法典化作業中の国連国際法委員会(ILC 1979 p.119)が、安保理の勧告の場合であっても、その実施が他の条約上の義務と抵触しても違法とみなされるべきではない(または責任を生じさせない)と述べたことを根拠として挙げる(Dugard 1966, pp.58-59; Sarooshi 1999, pp.150-151)。

(3)違法性阻却事由説

 安保理の授権や制裁の概念そのものが違法性阻却事由として機能すると述べる学説もある。Gowlland-DebbasとConfortiらは、国連の実行上、安保理の「勧告」、「要請」、「授権」等はどれも授権であり、違法性阻却事由として機能すると述べる(Gowlland-Debbas 2000, p.371; Conforti & Focarelli 2010, p.247, 405-406)。浅田は、各国が勧告に従った制裁措置をとっても諸国は問題視していないことから、「国連憲章に従った制裁であるという事実そのものによって違法性が阻却される」と述べる(浅田 2011, p.229)。

(4)小括

 安保理の経済制裁の勧告を授権とみなすかという論点が存在する。Krischは決議で「授権(authorizes)」が用いられるかで区別するのに対し、Gowlland-Debbasは、「勧告(recommends)」や「要請(calls upon)」等の場合も授権とみなす。授権であれば、制裁実施国にはそれを行う権利が、被制裁国にはそれを受忍する義務が生じる。問題は経済制裁の場合に授権というカテゴリーが存在するか、そこに属する措置を識別する基準は何かである。この問題は、安保理による経済制裁の勧告に合法化効果が認められるか、認められる条件は何かという問題と同じである。

 第103条適用説も違法性阻却事由説も、共に国連や加盟国の実行を根拠としており、「後に生じた慣行」の理論に依拠している。違いは、慣行を第103条の解釈に読みこむか、国連内慣習法形成の要素とみなすかであると考えられるが、どちらで説明しても実質的な差異はない。ただし、第103条説の論者は合法化できる範囲を条約上の義務と抵触する措置に限定する一方、違法性阻却事由説の論者は慣習国際法上の義務と抵触する措置も合法化できるとする。この違いは、合法化効果の根拠の違いから必然的に導かれるのではなく、どのような実行が積み重なり、どの範囲で加盟国の一般的受容が存在するのかにかかわる。ただし、既存の学説の多くは、国連機関(集団措置委員会や国連国際法委員会)の見解を参照するのみで、「任意的経済制裁」の事例や加盟国の一般的受容について検討しておらず、これらの点に十分な回答を与えているとは思われない。たとえ浅田が指摘するように、勧告による経済制裁の実施を諸国が問題視していないとしても、どのような慣行や一般的受容が存在しているか詳細に検討する必要がある。例えば、勧告による武器禁輸措置の実行が蓄積しており、その実施のための二国間の通商条約違反が問題視されてこなかったとしたら、そこから他の条約違反や慣習国際法違反までも許容されると結論することはできないだろう。この問題に対する大雑把な回答は、徒に安保理やその中の一部の大国の裁量を拡大することに繋がり、国際社会の法的安定性および被制裁国国民の生活に悪影響を及ぼしかねないと報告者は考える。

 

4.課題:「任意的経済制裁」の事例研究を通した慣行および加盟国の一般的受容の存在・範囲の確認

 

参考文献

 浅田正彦・大沼保昭 (2011),「安全保障―法への試練」大沼保昭編『21世紀の国際法 多極化する世界の法      

と力』日本評論社.

 Conforti, B & C. Focarelli (2010), The Law and Practice of the United Nations, 4th ed., Leiden & Boston: Martinus Nijhoff Publishers.

 Collective Measures Committee (1951), Report of the Collective Measures Committee, General Assembly, Official Records: Sixth Session, Supplement No.13 (A/1891).

 Doxey, M. P. (1987), International Sanctions in Contemporary Perspective, New York: St. Martin’s Press.

 Dugard, C. J. R. (1966), “Legal Effect of United Nations Resolutions on Apartheid,” South African Law Journal, 83 (1966).

 Fawcett, J. F. S. (1965-1966), “Security Council Resolutions on Rhodesia,” British Yearbook of International Law, 41.

 藤田久一 (1998),『国連法』東京大学出版会.

 Gowlland-Debbas, V. (1990), Collective Responses to Illegal Acts in International Law: United Nations Action in the Question of Southern Rhodesia, Dordrecht, Boston & London: Martinus Nijhoff Publishers.

 Gowlland-Debbas, V. (2000), “The Limits of Unilateral Enforcement of Community Objectives in the Framework of UN Peace Maintenance,” European Journal of International Law, 11 (2).

 ICJ (1948), Conditions of Admission of a State to Membership in the United Nations (Article 4 of the Charter), Advisory Opinion, I.C.J. Reports 1948 (May 28).

 ICJ (1949), Reparation for Injuries Suffered in the Service of the United Nations, Advisory Opinion, I.C.J. Reports 1949 (April 11).

 ILC (1979), Yearbook of the International Law Commission, Vol.2 (Part 2).

 Kolb, R. (2010), An Introduction to the Law of the United Nations, North America: Hart Publishing. 

 Krisch, N (2012a), “Introduction to Chapter VII: The General Framework,” in B. Simma, et al. (eds.), The Charter of the United Nations: A Commentary, 3rd ed., Oxford: Oxford University Press.

 Krisch, N. (2012b), “Article 39,” in Ibid.

 Krisch, N. (2012c), “Article 41,” in Ibid.

 松井芳郎 (1993),『湾岸戦争と国際連合』日本評論社.

 中谷和弘 (1987),「経済制裁の国際法上の機能とその合法性 (三)―国際違法行為の法的結果に関する一考察―」『国家学会雑誌』100巻11・12合併号.

 尾崎重義 (2010)「国際連合憲章第41条の注解(その1)」『国際政経論集』(二松學舎大学)16号.

 Sarooshi, D. (1999), The United Nations and the Development of Collective Security, Oxford: Oxford University Press.

 White, N. D. (1990), The United Nations and the Maintenance of International Peace and Security, Manchester & New York: Manchester University Press.

 

参考資料

安保理決議

制裁対象

制裁の背景

7章への言及

文言

制裁内容

50 (1948)

パレスチナ・アラブ諸国

第一次中東戦争

なし

Calls upon

武器禁輸 (para. 4)

82 (1950)

北朝鮮

朝鮮戦争

平和の破壊

Calls upon

不援助 (para. III)

169 (1961)

コンゴ

コンゴ動乱(内戦)

なし

Requests

武器禁輸 (para. 6)

180 (1963)

ポルトガル

アフリカ植民地支配

なし

Requests

不援助・武器禁輸 (para. 6)

181 (1963)

569 (1985)

南アフリカ

同上

アパルトヘイト

同上

なし

7 (決議418)

Calls upon

Urges

武器禁輸 (para. 3)

金融制限・部分的禁輸 (para. 6)

217 (1965)

333 (1973)

南ローデシア

同上

少数白人政権樹立

同上

なし

7,41 (決議232),25

Calls upon

Calls upon

Requests

武器禁輸・経済関係断絶 (para. 8)

制裁違反者厳罰の厳格化 (para. 4)

南ア・ポルトガルとの貿易制限 (para. 5)

792 (1992)

 

カンボジア

パリ停戦合意不遵守

なし

Calls on

Undertakes

石油製品禁輸 (para. 10)

資産凍結措置 (para. 11)

853 (1993)

アルメニア・アゼルバイジャン

ナゴルコ・カラバフ戦争 (領土紛争)

なし

Urges

武器禁輸 (para. 10)

876 (1993)

アブハジア (グルジア)

アブハジア紛争 (独立闘争・民族浄化)

なし

Calls on

武器禁輸 (para. 8)

1076 (1996)

アフガニスタン

アフガニスタン紛争(内戦・人権侵害)

なし

Calls upon

武器禁輸 (para. 4)

1227 (1999)

エチオピア・エリトリア

エチオピア・エリトリア国境紛争

平和と安全に対する脅威

Strongly urges

武器禁輸 (para. 7)

1295 (2000)

アンゴラ

アンゴラ内戦

平和に対する脅威,7

Calls upon

Encourages

石油・石油精製品の輸出規制 (para. 15)

ダイアモンド取引制限 (para. 16)

1493 (2003)

コンゴ

2次コンゴ戦争

平和に対する脅威、第7

Demands

金融面・軍事面での不援助 (para. 18)

1695 (2006)

1874 (2009)

 

2094 (2013)

北朝鮮

同上

 

同上

ミサイル・核開発

同上

 

同上

なし

7,41

 

同上

Requires

Calls upon

Calls upon

Calls upon

ミサイル関連物資禁輸 (para. 3)

資産凍結 (para. 18)

金融面での不援助  (para. 19)

金融制限 (paras. 12, 13)

1747 (2007)

 

1803 (2008)

1929 (2010)

イラン

 

同上

同上

核開発

 

同上

同上

7,41

 

同上

同上

Calls upon

Calls upon

Calls upon

Calls upon

武器輸出に関する不援助 (para. 6)

金融面での不援助 (para. 7)

金融活動に対する警戒 (para. 10)

資産凍結等の金融制限 (para. 21)