国連平和活動と武力行使──ハイレベル独立パネル報告書(2015)をもとに

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日本平和学会2016年度春季研究大会

報告レジュメ

 

国連平和活動と武力行使-ハイレベル独立パネル報告書(2015)をもとに-

 

広島修道大学 法学部

井上 実佳 

 

キーワード:PKO、武力行使、一般市民の保護、地域機構、南スーダン

 

1.はじめに

 本報告では、2015年6月17日に公表された「ハイレベル独立パネル報告書」を手がかりとして、国連平和活動 と武力行使との関係性を考察する。これは、パン・ギムン国連事務総長がジョゼ・ラモス・ホルタを座長として設置した独立パネルが国連平和活動の現状と問題点、今後の方向性についてまとめたものである。このような包括的再検討は、2000年にアナン国連事務総長がラフダール・ブラヒミを座長として設置した独立パネルの報告書「ブラヒミレポート」以来15年ぶりである。その間、国連平和活動の内容と、それをとりまく状況の変化は著しい。中でも、国連平和活動の中心的構成要素である国連平和維持活動(UN Peacekeeping Operations: PKO)の武力行使をめぐっては、多くの論点が提示されている。そこで、本報告では、2015年のハイレベル独立パネル報告書(以下、ホルタレポート)をてがかりに、国連平和活動と武力行使の現状と課題について検討を行う。

 

2.国連平和活動と武力行使

 本報告では、まず、国連平和活動と武力行使の関係を説明する。すでに知られているとおり、PKOは三原則(紛争当事者の同意、活動の不偏不党性、自衛を超える武力不行使)を掲げ、1948年から現在まで世界各地に展開してきた。このうち、武力行使について1990年代以降に大きな転換がみられた。国連安全保障理事会決議のもと、国連憲章第7章を適用されたPKO(“robust PKO”)が、一般市民の保護等を目的として、自衛を超える武力を行使するようになったのである。この傾向は特にアフリカに展開するミッションに顕著である。PKOの7-8割が同地域に展開し、「維持する平和が存在しない」中、一般市民が攻撃の対象となる実態に、国連がどのように対峙すべきなのか、国連加盟国はじめ諸アクターが模索した結果といえる。

 

3.ブラヒミレポート(2000)からホルタレポート(2015)へ

 このようなPKOによる武力行使の意義を、不偏不党性確保の観点から説明したのがブラヒミレポートであった。ホルタレポートは、さらに一般市民の保護をPKOの主たる任務の一つと位置付けている。しかし同時に、ホルタレポートはPKOがあくまでも「政治活動」であることを再認識すべきとも強調している。このことは、国連平和活動の構成要素として、PKOだけでなく特別政治ミッション(Special political missions)の重要性を指摘していることにも表れている。本報告では、両レポートを比較しつつ、国連事務局(特に事務総長や幹部職員)、加盟国政府など、PKOを動かすアクターが武力行使をめぐってどのように認識を変化させたのか論じる。また、ホルタレポートがPKOによる武力行使に起因する生じ問題をどのように扱っているのかについても検討を行う。

 

4.国連と地域機構との関係

 以上のようなPKOを中心とした国連平和活動を展開するにあたり、ホルタレポートで強く打ち出されているのが「地域的パートナーシップの強化」であり、端的にいえば国連と(準)地域機構との連携強化である。1990年代後半以降、(準)地域機構が独自に展開する平和維持部隊・ミッションは国際的な紛争対応においてもはや不可欠になっている。アフリカに関していえば、アフリカ連合(AU)と国連が合同ミッションの展開を超えて組織的連携を深めるとともに、EUやNATOといった域外機構が直接的・間接的にPKOをはじめとする国連平和活動を支えている。この傾向は、一般市民の保護を担う憲章第7章下のPKOを展開するうえで、国連の枠組みだけでは、もはや人的・物的・金銭的資源と各国の政治的意思を十分に確保できないという問題を反映している。一方、PKO要員による性的搾取・虐待や要員の不十分な装備・訓練といった課題も生じて久しい。本報告では、現在の国連平和活動、特にPKOを支える重要な要素として国連と地域機構との関係を位置づけ、検討を行う。

 

5.おわりに

 日本政府は2016年5月現在、国連南スーダンミッション(UNMISS)に自衛隊を派遣している。本報告の最後に、日本政府が加盟国として国連平和活動への関与を継続する上での課題を指摘する。

 

 

参考文献

 UN Doc. A/55/305–S/2000/809, August 21, 2000 (“Brahimi Report”).

 UN Doc. A/70/95-S/2015/446, June 17, 2015 (“Horta Report”).

 井上実佳「『保護する責任』と国連平和維持活動-アフリカに焦点を当てて-」『国際安全保障』40巻2号、2012年09月、58-75ページ。

 井上実佳「10章 国連のアフリカPKO派遣-スーダンを事例として」『国際平和活動における包括的アプローチ-日本型協力システムの形成過程』内外出版、2012年、274-298ページ。

 藤重博美「国連平和維持活動の潮流と日本の政策–5つの政策課題における『PKOギャップ』に注目して」『国際安全保障』第43巻4号、2016年3月、23-37ページ。

 Hikaru Yamashita, “ ‘Impartial’ Use of Force in United Nations Peacekeeping,” International Peacekeeping, vol.15, no.5, November 2008, pp. 615-630.

 

[1] 本報告において、国連平和活動とは、国連決議に基づいて実施される、または加盟国が国連の枠組みを活用して実施する紛争対応の総称を指す。これに対し、平和維持活動(PKO: peacekeeping operations)は、特別政治ミッション(special political mission)や和平活動(peacemaking)、平和構築(peacebuilding)、紛争予防(conflict prevention)などとともに国連平和活動を構成する。