グローバリゼーションと環境・開発レジームの形成~SDGs(持続可能な開発目標)、パリ協定(気候変動枠組み条約)の意義~

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(日本平和学会2016年度春季研究大会 報告レジュメ)       2016年6月26日

環境・平和分科会報告

 

グローバリゼーションと環境・開発レジームの形成

~SDGs(持続可能な開発目標)、パリ協定(気候変動枠組み条約)の意義~

 

古沢広祐(國學院大学経済学部、NPO「環境・持続社会」研究センター)

 

   国連・2030アジェンダへの視点

 2000年の「国連ミレニアム宣言」を契機に定められたMDGs(ミレニアム開発目標)、その流れを引き継いで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(以下、2030アジェンダ)が2015年国連サミットにて採択された。この動きは、途上国の貧困解消と開発(南北格差問題)に重点を置いた開発の流れ(開発レジーム)に、1992年「地球サミット」(国連環境開発会議)を契機に主流化した持続可能性の流れ(環境レジーム)が合流し一体化をはたす新段階を象徴した出来事ととらえることができる。

 こうした新潮流とともに強調したい歴史的意義は、国連に代表される人間社会が長年追い求め、築き上げてきた共有価値の集大成ともいえる点だ。それは、国連設立70周年という歩みとその周辺領域で展開されてきた市民社会の国際的な連帯の成果という側面である。戦後の激動する国際社会は、国際政治での国家間の攻防とともに紆余曲折を伴いながら地球市民社会の形成を促す歩みを続けてきた。

 国連は、いわゆる中核のハードなコア(基幹部分)とソフトな領域(関連諸活動)があり、多面的に国際社会の諸課題について取り組んできた。ハードなコア部分とは、安全保障理事会のような第2次大戦下での国家連合としての基幹組織であるが、近年の複雑化し錯綜する問題に対応しきれない硬直性を引きずっている。それに対してソフトな活動部分は、ユニセフ(UNICEF、国連児童基金)、UNDP(国連開発計画)、UNEP(国連環境計画、1972年設立)など関連する20をこえる諸機関・基金・計画が担っており、国連ファミリーないし国連システムとよばれている。多くの組織ができて、肥大化や非効率などといった指摘もあるが、諸課題に対して柔軟で比較的民主的な対応がとられており、2030アジェンダ形成に繋がっている。

 2030アジェンダの文面をこまかく見ると、さまざまな分野で歴史的に積み上げられてきた成果の上に、未来世界が展望されていることがわかる。とくに20世紀から21世紀にかけての最大の課題ともいえる人権、開発、環境問題などの分野に関しては、リオ宣言(1992年)、ミレニアム宣言(2000年)、そして今回の2030アジェンダに示されたような革新的な活動が展開されてきた。それらは、法的な拘束力をもつ国際条約の外郭ないし外堀を築いてきたと考えられる。そこでは国家的な狭い利害の枠を超える、人類の共有価値の形成ともいうべき試みが展開・深化されており、今後の新潮流として重要な動きである。

   気候変動・パリ協定、環境レジームをめぐる動向

 気候変動をめぐる国際的対応は、基本的に気候変動枠組み条約を軸に動いている。その動向を簡単にみておこう。気候変動の深刻なリスクはすでに顕在化しており、後戻りできない状況に入っている。すでに予防段階を過ぎて、どの程度まで緩和できるか、また避けられない変動リスクにどう適応していくか、さらにはその損害への対処や補償をどうするかが話し合われる状況となってきた。気候変動枠組み条約の締結(1992年)の後、具体的な温室効果ガスの削減目標を定める京都議定書(1997年)をへて、2015年のパリ協定までの議論の推移を追うと、事態の深刻化と制御困難な状況を実感できる。

 現状および各国が示している温室効果ガスの削減目標については、これまでの目標としてコペンハーゲン(COP15)やカンクン(COP16)の合意での気温上昇2度C未満におさえる目標が、パリ協定(COP21)においては2度C未満とともに1.5度Cを努力目標とすることが合意された。しかしながら、現状で各国が示している努力目標(INDC)とは大きく乖離しており(2.7度C上昇予想)、先行きは不透明感が漂っている。そのギャップはきわめて大きく(10億単位であるギガトン・ギャップと呼ばれている)、このギャップを埋められるのか議論は百出している。対応状況はリスク回避からリスク受容へ、適応や被害対処へと視点が推移しており、期待と現実の矛盾状況は深刻である。気候変動を回避すべく国際的な対応が迫られているわけだが、今後の見通しはかなり綱渡り的な事態が予想される。

 1992年の気候変動枠組み条約から1997年の京都議定書の締結と削減約束の実施期間(2008ー2012)までの動きは、トップダウン型の統制と義務履行の制度化で進められてきた。2007年のCOP13でバリ行動計画が採択され、第1約束期間(2008-2012)以降のための交渉メニューが合意され、2009年のCOP15には次期枠組みの形成が現実化するものと期待されたが、まとまらずに決裂した。交渉は困難をきわめ様々な対立軸が鮮明化しだす経緯をたどった。交渉の主要国が97年当時と異なり、世界中の多数の国々を巻き込んでさまざまな立場と利害が複雑にからむことで、交渉内容やプロセス自体が格段に高度化した。さらに2008年から世界金融危機が深刻化したことで、国際社会の関心は環境面から経済面や社会問題に軸足が移った。また、トップダウン型の統制と義務履行の制度構築は難しくなり、決裂したCOP15のにがい経験をふまえて、COP21ではボランタリーな自主的行動をうながすボトムアップ型のソフトアプローチに基づく取り決めとして、パリ協定が合意されたのだった。

 ボランタリーの積極面と消極面がどう展開するかは予断をゆるさない。囚人のジレンマ(互いに疑心暗鬼になり事態を悪化)的な状況も予想され、ネガティブにならず、ポジティブなプラス思考で相乗的な成果を導いていくプロセスをどう創り出していくかが期待されている。その点で、上記のSDGsのようなソフトで多面的なアプローチが力を発揮する可能性をもつのではなかろうか。実際、パリでのCOP21会合に参加した際に、幾つかの分科会でSGDsとの連携を強調する問題提起が行われていた。温室効果ガスの削減、規制はコスト負担などネガティブ面が出がちだが、省エネや省資源のみならず、貧困削減や生活改善、社会の安定や福祉など長期的な持続可能な社会形成につながる側面を打ち出せれば促進力がつく。SDGsの17目標は、個別目標以上にさまざまな相乗効果を期待している。一つの効果のみを期待するのではなく、副次的効果、間接的な効用などを含む総合的なプラス効果を期待し改善していくアプローチが重要なのである。マイナス思考に落ちいらないように、環境改善→社会改善→経済的改善、という流れが好循環を生んでいく政策やプログラムを構想する上で、SDGsは大いに活用できるのではなかろうか。

 従来型の開発・発展政策は、短期的で一元的な価値基準で推進されてきたきらいがあった。大量生産・消費・廃棄を前提とする従来型の開発は、結果的に高負担をうむ悪循環に陥るリスクをもつ。巨大都市(メガシティ)形成や超高層ビルの建設、化石燃料や原子力への依存などは典型的な悪循環の例として見直す必要がある。交通システム、インフラの適正化、居住、自然環境、農村コミュニティの維持、地域に密着した教育や福祉など、総合的かつ長期的な視点から政策プログラムが構想されるべき時をむかえている。まさしくSDGsを効果的に活かすアプローチが期待されるのである。