世界経済の自然環境的基盤をどうとらえるか ─グローバル化と「自然資本」をめぐる論点を中心に─

ダウンロード
10月23日環境・平和、発展と平和分科会(山川).pdf
Adobe Acrobat ドキュメント 112.3 KB

日本平和学会2016年度秋季研究集会

報告レジュメ

 

世界経済の自然環境的基盤をどうとらえるか

─グローバル化と「自然資本」をめぐる論点を中心に─

 

下関市立大学

経済学部

山川 俊和

 

キーワード:世界経済、社会的共通資本、自然資本、エコロジカル・フットプリント、エコロジカル不平等交換

 

 

1.はじめに

 自然環境とは何か。具体的には、森林、草原、河川、湖沼、海岸、海洋、水、地下水、土壌、さらには大気などを指す。また、森林、草原などに生存するさまざまな動・植物もすべて自然環境の一部である。自然環境というとき、これらの構成要素のいくつかが相互に密接に関連した、一つの全体としてとらえる。たとえば、一つの森林をとったとき、たんに森林を構成する樹木だけでなく、伏流水として流れる水、さまざまな微生物をもつ土壌、そこに生存する動・植物などを統合して、一つの総体としての森林を自然環境という概念としてとらえられる(宇沢 2003)。

こうした自然環境が存在してはじめて、経済活動は機能する。しかし、世界経済の歴史とネットワーク、そして権力的要素に注目する「世界経済論」において、自然環境への関心と考察は限定的であった。自然資本論(Theory of Natural Capital)とエコロジカル不平等交換論(Theory of Ecological Unequal Exchange)を批判的に検討することを手がかりに、世界経済の自然環境的基盤に対する把握方法を検討する。とくに、自然資本のストックとそこから生まれるフローへの経済学的アプローチをめぐって、貨幣的把握、物質的把握それぞれの意義と問題点を確認する。

 世界経済論のひとつのメリットは、世界経済の構成主体間の異質性と不均等性を明らかにすることにある。本報告では、自然資源の利用と環境負荷の観点から、世界経済論の新たな分析枠組みと課題を析出することを試みる。

 

2.現代世界経済の特徴

  • 統合のモード:「浅い統合」(国境措置)から「深い統合」(国境内措置)へ
  • 「国家」と「企業」:関係性の「逆転」
    • 企業活動のグローバル化を国家が支える構図(「競争的国民国家」)
    • 企業収益の拡大と国民経済、地域経済の発展とのリンクがますます弱くなる
      • TPPなど「ハイパー・グローバリゼーション」問題
      • タックスヘイブン問題
  • 世界経済における格差拡大
  • 新興国依存の世界経済とグローバルな資源・環境リスク
  • 現代世界経済における「エコロジー危機」について

 

3.「世界経済」をどうみるか

  • 国際経済的認識:国際経済取引の例外事象としての資源・環境問題
    • 「環境と貿易」の伝統的議論:国家間の貿易取引の拡大が自然環境を破壊するミクロの事象に注目
  • 地球経済的認識:自然環境的基盤の上に成立している世界経済という視点
    • 宇沢弘文の社会的共通資本論

 

4.持続可能性

  • 持続可能な発展の定義
  • 持続可能性の経済学的パラダイム(強い持続可能性・弱い持続可能性)
  • 持続可能性をめぐる現実
    • 食料・天然資源面の持続可能性(楽観的)
    • 環境面での持続可能性(悲観的)
  • E.バービアによる持続可能性と経済発展のとらえ方

 

4.「自然資本」をめぐって

  • 新古典派的アプローチ:「包括的」富(inclusive wealth)
    • 人工資本
    • 人的資本(教育、技能、暗黙知、健康)
    • 自然資本(地域の生態系、生物群集、地下資源)
    • シャドー価格と「最適性」
  • 非新古典派的アプローチ:エコロジカル・フットプリント
    • 実物的把握のアプローチ
    • 先進国の「生態学的赤字」(自国のバイオキャパシティ以上の資源消費)
    • 「貿易を通じた自然資源利用の不平等性」と「エコロジカル不平等交換論」

 

5.まとめと課題

  • 議論のまとめ
  • パラダイムの転換:重化学工業化パラダイムから、新たな経済パラダイムへ
    • 画一化されたグローバリズムからの脱却:経済の重層的理解への試論と地域経済重視の論理
    • 自然資源依存型産業・地域としての農山村
  • エコロジカルな価値の制度化にむけた課題
    • 市場と公共を通じた「支払いシステム」による価値の制度化
  • 「収奪原理」から「共存原理」に基づく地域連携、国際連携、
    • 連携の基本理念:収奪から共存へ、企業利益から公共性・持続可能性へ
    • ナショナルミニマムnational minimum とシビルミニマムcivil minimum

 

参考文献

 宇沢弘文『宇沢弘文著作集』岩波書店。

 宇沢弘文(2003)「環境と社会的共通資本」『人間環境論集』(法政大学)第3巻2号。

 宇沢弘文(2015)「社会的共通資本と森林コモンズの経済理論」宇沢弘文・関良基編『社会的共通資本としての森』東京大学出版会。

 国連環境計画編(2014)『国連大学 包括的「富」報告書——自然資本・人工資本・人的資本の国際比較』 (山口臨太郎・植田和弘訳、武内和彦監修)、明石書店。

 玉野井芳郎(1978)『エコノミーとエコロジー』みすず書房。

 寺西俊一(1992)『地球環境問題の政治経済学』東洋経済新報社。

 山川俊和(2014)「自然資源貿易論の再検討」『一橋経済学』第7巻1号。

 山川俊和(2015a)「社会的共通資本がある世界と国際経済——宇沢弘文のTPP批判を中心に」『現代思想』2015年3月臨時増刊号、青土社。

 山川俊和(2015b)「「環境と貿易」とアジア経済——貿易を通じた自然資源利用・消費と新興経済圏の台頭を中心に」『地域共創センター年報』(下関市立大学付属地域共創センター)第8号。

 山川俊和(2016a)「現代世界経済における貿易ガバナンスに関する一考察——サプライチェーン貿易時代の国家と企業」『地域共創センター年報』(下関市立大学付属地域共創センター)第9号。

 ロドリック・ダニ(2013)『グローバリゼーション・パラドクス——世界経済の未来を決める三つの道』(柴山桂太・大川良文訳)、白水社。

本山美彦(1976)『世界経済論』同文館。

 Barbier, E.  (2005) Natural Resources and Economic Development, Cambridge University Press. 

 Barbier, E. (2011) Scarcity and Frontiers: How Economies Have Developed Through Natural Resource Exploitation, Cambridge University Press.

 Barbier, E. (2011)  “Trade, natural resources and developing countries”, Gallagher, K. ed., Handbook on Trade and the Environment, Edward Elgar.

 Barbier, E. (2011) Scarcity and Frontiers: How Economies Have Developed Through Natural Resource Exploitation, Cambridge University Press.

 Barbier, E. (2015) Nature and Wealth: Overcoming Environmental Scarcity and Inequality. Palgrave Macmillan.