戦後70年過ぎて甦る登戸研究所 ――戦争遺跡を保存・活用し平和教育の拠点へ

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日本平和学会2016年度秋季研究大会

ラウンドテーブル「多摩地域発 平和な社会づくりにむけた挑戦」(開催校企画)

 

戦後70年過ぎて甦る登戸研究所

――戦争遺跡を保存・活用し平和教育の拠点へ

 明治大学平和教育登戸研究所資料館

渡辺 賢二

 

はじめに…埋もれていた秘密戦研究所が甦った意味を考える。

1.ごく一部の人しか知らなかった陸軍登戸研究所(戦前)

1)知っていた人は?

①陸軍参謀本部と関係部局、天皇ならびに皇族。

②陸軍科学研究所の担当部局。

③陸軍中野学校の関係者。

④陸軍登戸研究所に勤務していた人、嘱託になった人。

⑤陸軍登戸研究所と関係した特務機関、憲兵。

2)なぜ、知られていなかったか?

①秘密戦のための研究所だったから。

<秘密戦とは> ○防諜・諜報・謀略・宣伝をいう。

<防諜・諜報の機材>○無線機材・盗聴機材・秘密インク・秘密カメラ・変装機材・犬迷い剤な

 ど。

<謀略の機材>○要人殺害用の各種毒物(青酸ニトリル、蛇毒など)・火炎瓶・毒ガス・毒入り

 チョコ・細菌兵器(植物を枯らす細菌・牛を殺す細 菌)・偽造紙幣など。

<宣伝の機材>○和紙をこんにゃくのりで貼った気球を使った伝単・特殊拡声器など。

②軍の法規でも消されていた。

○陸軍の技術研究所は技術研究所令で定められ、「第一条、第一技術研究所…」などとなっていたが、なぜか「第九条、第十研究所…」とされ、第九技術研究所は消されていた。したがって、陸軍 登戸研究所としかいいようがなかった。こうした例は学校の場合の「陸軍中野学校」も同様であった。

3)大本営・陸軍参謀本部は、この研究所に大いに期待していた

①「秘密の中の秘密」であった偽造紙幣による作戦。

  • 現代戦は武力戦だけでは勝利することは難しい。日本の傀儡政権をいかにつくるかが大切となる。日本は柳条湖事件という関東軍の謀略からはじまる満州事変と「満州国」建国によって中国東北部に地歩を得たが、日中戦争でも同じことを試みた。それが傀儡 南京政府の樹立であった。
  • 中国政府の法幣制度は米英の支援で確立(1935年)したばかりで紙幣印刷工場も香港やラングーンにあった。そうした経済体制の弱さをつかんで、偽造紙幣作戦を展開。
  • 1942年には、香港から中国紙幣の原板を接収し、登戸に持ってきてそれで製造した。
  • 総額45億元製造し、35億元使用。
  • 軍事物資を購入したほか、戦費にも活用した。
  • 中国政府は米英の支援で高額紙幣をつくって偽造紙幣の価値を下げて応戦。

②アメリカ向けの風船爆弾作戦。

  • アメリカ向け「決戦兵器」としての風船爆弾の開発。
  • 気象研究者、電気関係研究者、紙・糊などの化学研究者などが動員され、和紙をコンニャク糊ではった10メートルの気球を作り、高度維持装置でアメリカまで届くものを開発。
  • 爆弾部分には、細菌兵器を搭載する研究・開発・製造した。
  • 実際は、焼夷弾を搭載した謀略兵器として9300発打ち上げた。うち、1千発くらいがアメリカに届いた。6人の死者を出した。

2.戦後も秘密にされた陸軍登戸研究所の実相

1)陸軍による証拠隠滅

①陸軍省は1945年8月15日早朝、証拠隠滅命令を発した。

②陸軍登戸研究所に勤務した人も証拠隠滅をした後、暗黙の内に秘密厳守が求められた。

2)冷戦下、アメリカによる資料提供を求める動き

3.市民・高校生が明らかにし、明大がまとめた陸軍登戸研究所の 実相

1)ジャーナリストによる問題提起

○松本清張、斉藤充功らによる摘発。

2)市民・高校生の取り組みの決定的意義

①市民が動く時大切なものが発掘された。

○川崎中原平和教育学級が取り組み、同じ地域に住む人から情報提供を受け、『雑書綴』という貴重な資料を発掘した。

②高校生が登戸研究所関係者の重い口を開かせた。

○「大人には話さないが君たち高校生には話そう。」

③高校生の発想がもたらした陸軍登戸研究所保存・活用の意義

○「戦争と平和はそんな遠い関係ではない。私たちの生き方と関係する。」…石井式濾過器の濾過筒の発掘とそれへの思い。

④陸軍登戸研究所に勤務していた人たちが明大に保存・活用を求めた。

⑤市民の保存・活用を求める動きも活発に。2006年から保存の会。

⑥明治大学の動き。

○1995年から明大として学術調査と保存・活用の方向性確認。

○2006年、保存と活用の方針を決め、2010年4月「明治大学平和教育登戸研究所資料館」を開設。5万人を超す参観者を迎えている。保存の会との連携も強化されている。

3)今後の課題…大学・行政・市民の連携による文化遺産へ

①「負の遺産」を「平和を創造する」文化遺産に。…国の登録文化財に。

②歴史教育・平和教育・科学教育の発信・受信の場に。