日米安保体制克服にむけた方法論――『新外交イニシアティブ』の意義

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日本平和学会2016年度秋季研究集会

 

新しい日米関係構築にむけた方法論

「新外交イニシアティブ」の意義」

 

新外交イニシアティブ事務局長・弁護士

猿田佐世

 

キーワード:日米外交、沖縄基地問題、TPP、原発、民主主義

 

1.概論

 日米安保体制を維持してきた「日米外交のシステム」について、特に米国の首都であるワシントンにおけるシステム、および、「ワシントンの日本コミュニティ(対日外交に関わる日米のステークホルダー)」に焦点を絞って分析する。また、その問題点、そして、その問題点の克服の可能性について実際の経験も踏まえながら検討を行う。「アメリカに従う」という姿勢が日本により選択された結果でもあることを直近の具体例を使いながら示す。また、アメリカにも多様な立場が各論点について存在するが、日本が「利用(従属)」しようとしているのが米国のある特定の立場である可能性も検証する。

 

2.ワシントンの機能

 ワシントンという覇権国の首都では、人口65万人という小さな街の近接したエリアに、米政府、米議会、世界中のメディア、シンクタンクなどがあつまり、情報と権力が集中している。ワシントンは、世界政治におけるアジェンダ・セッティング(議題設定)、評価付け、権威付けの各機能を有する。

 日本政治の文脈においては、日本人が自らの声をワシントンという拡声器を使って拡大し、日本で自らの進めたい政策の追い風とする手法が確立している(ワシントンの「拡声器効果」)。

 

3.対日外交と米国

 日本政治に関心がある人が限られる中で、対日外交は「第1層 米国政府(国務省・国防総省(軍))、第2層 連邦議会、第3層 街『ワシントン』」によりおこなわれている。ワシントンという「街」は、シンクタンク・大学・ロビーイスト・メディア・企業が集まり、「政府に重要なコンタクトとアクセスをもつ非政府機関が織りなす、広いクモの巣のような」「権力の半影」と呼ばれている。(ケント・カルダー『ワシントンの中のアジア』2014年)大統領選を機会とする米国政治の「回転ドア方式」により第1・2・3層が入れ替わるため、「街」も強い影響力をもつ。

 シンクタンクは、回転ドアの研究者の所属先であり、政権外にいる人についても政策を発表しメディアを通じ、また政府に提言をして、影響力を行使している。シンクタンクはここ20年で力を増しており、予算規模も大幅に増加している(例:ブルッキングス研究所 2003年 39億円→2013年 95億円)。近年、ニューヨークタイムズにおいて、外国政府や企業がシンクタンクを使って影響力を米政治に及ぼそうとしていると批判がなされた(2014年9月6日・2016年8月7日)。

(例)ブルッキングス研究所の対米政府影響力(2013年)

公開イベント(236回)、議会・政府ブリーフィング(145回)、連邦議会での証言(31回)

有力者の政府への排出 等

 在ワシントンの対日外交における日本人ステークホルダーは大使館、大企業、大メディア、頻繁に訪米する保守政治家や一部の識者。

 

(1)ワシントンのシンクタンク

 シンクタンクは米のポリシーメーカーに近づく貴重なルートである。シンクタンクでの面談、講演、クローズドな勉強会の開催、報告書発表などを通じ、情報収集をし、および、自らの声を広げるための場としてシンクタンクが利用されている。(例:アーミテージ・ナイ報告書(CSIS)、石原慎太郎元都知事の尖閣購入宣言(ヘリテージ財団))。政権に直接インタビューすることが難しい日本メディアにとっても良い取材先であり、米国の関心対象を読むための情報源である。

 ワシントンの大手シンクタンクには、ブルッキングス研究所、戦略国際問題研究所(CSIS)、CFR(外交問題評議会)・カーネギー平和財団、ヘリテージ・ファンデーション、AEI(American Enterprise Institute)があるが、日本関連ではCSISが圧倒的に強い影響力をもつ。

(参考)日本からのシンクタンクへの資金提供(概算)

【ブルッキングス研究所】日本大使館 2613万円(2012年)/航空自衛隊 250万円(2013年)/国際交流基金(毎年)2500万円~5000万円(2015年)/JICA(毎年)1000万円~2500万円(2015年)

【CSIS】日本政府(毎年)6000万円以上(2015年)/JETRO 3000万円(2014年)

他、日本企業も寄付を行っている。日本政府・日本企業の支出の全体像は明らかにならない。シンクタンクには寄付者の公開義務がなく、また、資金提供の中には共催のイベントや調査にかかった費用の企業側の負担、客員研究員の受け入れの費用などが別途あると思慮される。

 

(2)知日派

対日外交に影響力を持つ知日派は、報告者のインタビュー調査によれば5人~30人。少人数ゆえにさらに力をもつ。

 「ワシントンの日本コミュニティ」の3条件は、「①日米同盟の強化、②米軍のプレゼンスの維持・増強、③自由貿易の追及」。

 「政権内にいた経験、また、今後政権に戻るであろうという期待に基づき、多大な資金を得ながらコンサルタント業務を行って影響力を行使する」「金、影響力、日本の政府におけるネットワークについての知識、米政府のネットワークについての知識、また両政府に影響力を持っているだろうという印象、これらすべて」によって強力な影響力を持っている(ローレンス・ウィルカソン元国務長官首席補佐官)

 

(3)ロビーイスト

 各国政府の米国でのロビーイストへの依頼はForeign Agents Registration Act (外国代理人登録法)の情報公開により概要把握が可能。例えば、2013年には日本政府が7200万円、日本大使館が1億0300万円をロビーイストに支出。

 経済・TPPについてはAkin Gump法律事務所へ、900万円(11年)6000万円(12年)6700万円(13年)を支出。従軍慰安婦問題、バージニア州議会の教科書における東海の記載、在日米軍基地等については、Hecht, Spencer & Associates,Incへ年2000万円弱(11~13年)、Hogan Logells US LLP へ5800万円(11年)3900万円(12年)5200万円(13年)を支出。

 

 (例)「米国の運転するバスに乗り遅れるな」として交渉参加したTPPだが、その米国の雰囲気醸成の一端は日本政府が担った。CSIS(JETROが過去4年で1億1000万円)への寄付により、CSIS開催のクローズドの米政府関係者の集まる会議にJETRO職員が出席、CSISがTPP推進のセミナーを開催しJETROのCEOが基調講演、Akin GumpがTPP議員連盟を創設、CSIS開催シンポにTPP議員連盟議長二人が登壇、CSIS研究者が議会で日本政府の意に沿った発言。

 

(4)ワシントンの日本メディア

  ワシントン発の膨大な情報におわれて、調査報道などを行う時間がない。日米安保の担当者は外務省の霞クラブ、防衛省の防衛記者クラブなどを担当した政治部記者であり、既存の外交に寄る報道がなされる傾向にある。限られた情報源(例:在ワシントン日本大使館・国務省日本部など)を批判することが難しい(例1)。十分なバックグラウンド情報を掲載せず、日本の有権者の判断に必要な情報を提供しない(例2)。情報を伝えるチャンネルが他に日米間にないため、日本政府とメディアによる情報の選択が容易になされる。日本に運ぶ情報の恣意的選択(例3)。

 

(例1)ケビン・メア元米国務省日本部長「沖縄は怠け者でゴーヤも作ることができない」「沖縄は基地で東京をゆする名人」発言。日常的になされるこのような発言を記事にしないワシントン特派員。

(例2)日本のメディアで強く原発再稼働を求めてきたCSISの所長ジョン・ハムレ氏は、濃縮ウランを日本の原発に輸出する企業の顧問だが、日本のメディアはそれを掲載しない。

(例3)集団的自衛権容認の閣議決定前の議員訪米による知日派のコメント取りとそのコメントのメディア掲載

 

4.問題点

 ワシントンの「拡声器効果」= 日本の一般の人々の声はアメリカに伝わらず、資金力がある者の声のみ届く。その上で「米国」のベールをかぶって強烈な影響力を日本に与える。日本の国民の監視、議論、評価が働かない。

「日本で流布している言説とワシントンで日本側が仕掛けていることの間に大きな乖離が存在している」(岩下明裕北大教授)

「(ワシントンでの)会議を日本の資金で開催し、聴衆の多くは日本人で、それを聞いた日本人が報告書を書いて、ワシントン情報として日本に送り、その情報が日本に広まる。」(米知日派の一人)

「簡単かつ効率的だが、可能性ある選択肢を全て検討しながら意義ある対話やディスカッションを行うことにならず、日本や米国の民主主義の発展のために望ましくない」(ローレンス・ウィルカソン元国務長官首席補佐官)

「ワシントンのシンクタンクや知日派グループが強い影響力を持つと日本で認識されているのはメディアの作り出した神話」(米知日派の一人)であるが、日本の手により「神話が現実化」している。

 

(ケース・スタディ:日本の使用済み核燃料再処理 猿田(2016b))

 米国政府高官から多くの米専門家まで懸念を示す日本の使用済み核燃料再処理・プルトニウム蓄積問題

 日本ではさほど報道されないのはなぜか

 日米外交チャンネルを有する米「知日派」と有さない米「核不拡散派」

 

5.ワシントンの可視化・マルチトラック外交の必要性

 これまで、既存の外交ルートは外務省頼みであった(例:鳩山政権時代の民主党もワシントンにオフィスを持たず)。リベラル勢力が積極的にアメリカに働きかけることもなかった。言語・文化の差異、チャンネルの欠如も大きい。マルチトラック外交が必要。現在の外交チャンネルに属していない人たちとは繋がる機会が少ないが、テーマでつながる可能性は多いにある(例:沖縄基地問題→米国財政難、環境・女性問題の視点など)。

(成功例)国防権限法(2016年度)から「辺野古が唯一の選択肢」との条文を取り除く

 

6.課題

・働きかけの質の向上と量の増加

・対米以外の他の取り組みとの連携

・日米関係についての各論および総論についての代替案提示の必要性

・既存の日米外交に代替する価値観の日米における強化(例:サンダース旋風)

 

 

参考文献:

猿田佐世(2016a)『新しい日米外交を切り拓く 沖縄・安保・原発・TPP、多様な声をワシントンへ』 集英社クリエイティブ

猿田佐世(2016b)『アメリカは日本の原子力政策をどうみているか (岩波ブックレット)』(共著)岩波書店

猿田佐世(2015a)『沖縄基地問題は日米関係の縮図 ―「ワシントン拡声器」を可視化する報道を』雑誌「Journalism」2015年9月号

猿田佐世(2015b)『日本外交における“米国”とは ―ワシントンの可視化に向けて』(共著)「シリーズ日本の安全保障2 日米安保と自衛隊」 岩波書店

猿田佐世(2014)『虚像の抑止力』(共著)新外交イニシアティブ編・旬報社