両大戦間期ドイツの民間防空における「平和」の敗北 -「守り」のイデオロギーとの相克-

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日本平和学会2017年度春季研究大会

報告レジュメ

 

両大戦間期ドイツの民間防空における「平和」の敗北

-「守り」のイデオロギーとの相克-

 

東京女子大学

柳原伸洋

 

キーワード:ドイツ現代史、ヴァイマル共和国、空襲、防空、平和運動

 

1.はじめに

 本報告では、両大戦間期のドイツとくにヴァイマル期からナチ期初期を中心に「民間防空(独語:Ziviler Luftschutz)」の展開を追っていく。とりわけ民間防空の推進派と反対派の両者について言及し、そのなかに現れる「守り(Schutz)」の意味について考察してみたい。

 本報告において枢要な位置を占める時代的背景として、第一に、両大戦間期に空爆は「将来戦争」において必ず大規模に実行されると予想されていたこと。第二に、「来たるべき」空襲において最も問題視されたのは「毒ガス」だったことが挙げられよう。これらを押さえつつ本論に入っていきたい。

 

2.第一次世界大戦の戦争体験と民間防空の展開 

 第二次世界大戦を知り、今なお続く空爆を知っている我々には、第一次世界大戦の空爆規模はわずかなものに思えるかもしれない。しかし両大戦間期において、空爆は絶大なるインパクトを有していた。つまり、「来たるべき」戦争において空爆は大きな脅威として考えられていたのである(柳原 2009)。ドイツでは、空爆に対する住民防衛としての民間防空は、「脅威」と連動して議論されていった。たとえば、1923年のルール危機、1928年のハンブルク・ガス工場事故、そして1920年代後半から30年代前半にかけての経済・政情不安と連動して議論された。

 

3.防空展示と民間動員 

 ヴェルサイユ条約によって、民間防空活動が禁止されているか否かについてはヴァイマル期を通じて常に議論された。そして、第一次世界大戦後のヴァイマル共和国ドイツを取り巻く地理的な環境から「脅威」が語られた。そこでは「自国を守る必要性」が繰り返し訴えられた。また、ヴェルサイユ条約内の航空兵器・毒ガス禁止条項を引用し、軍事的な「脅威」が語られた。ここでは自己保存としての「守り」が主張されたのである。

 

4.防空宣伝と平和主義者からの批判 ―「守り」を中心に-

 ここでは平和主義者研究の蓄積を踏まえながら(竹本 2016, Riesenberger 1985)、防空宣伝と平和主義者との議論に着目する。この議論では、民間防空の実際の効果が争点となった。たとえば、1925年に化学者ゲルトルート・ヴォーケルは、未来戦争で化学兵器と爆撃が結びついて攻撃が実行された場合、一般人を守ることは不可能だから、兵器の放棄あるいは化学兵器使用を全面的に禁止せねばならないと訴えた。そして彼女は、防空活動が民衆を戦争へと導いていると指摘したのである(von Leitner 1998, Steinweg(Hg.) 1991)。つまり、ヴォーケルは、毒ガス爆撃からの民間人防衛はすでに不可能という立場をとっていた。

 これに対し、先述の地理的・軍事的な「脅威」を持ち出して、民間防空という「防衛」は当然の権利であるとして、推進派(軍部や準軍事団体)は反論した。そこでは、防衛の不可能性ではなく、守る可能性を高める行為としての民間防空が構想された。ほかにも、「住民全員」が防衛活動に携わる民間防空は、「民主的」とさえ考える者までいたのである。

 自己防衛の権利としての民間防空は、実際には「動員」と不可分であったこともあり、フランスやソ連をはじめとして整備されており、ヴァイマル共和国内の左派勢力もまた防空活動による結束を重視していた。つまり、ナチ党や鉄兜団のみならず、労働者ザマリタン同盟や赤十字もまた民間防空活動に関わったのである。

 

5.おわりに ―「守り」と「平和」を再考するために-

 以上のように、「守ること」は多くの場合において「正当な権利」として捉えられた。しかし、その「守り」の空間的・時間的な範囲に関しては留保が必要である。民間防空の推進派と反対派の議論のなかで、結果的に推進派が主流になったことは今なお(今だからこそ)再考される余地があると考える。本研究を一例として、歴史的に「守り」と「平和」の関係性について分析することが今後の課題として挙げられよう。

 

 

参考文献

 竹本真希子(2017)『ドイツの平和主義と平和運動 ヴァイマル共和国期から1980年代まで』法律文化社.

 柳原伸洋(2009)「ヴァイマル期ドイツの空襲像 -未来戦争イメージと民間防空の宣伝」『ヨーロッパ研究』8号.

  Jost Dülffer, Gerd Krumeich (Hg.), Der verlorene Frieden. Politik und Kriegskultur nach 1918, Essen 2002.

Lothar Kettenacker, Torsten Riotte (eds.), The Legacies of Two World Wars. European Societies in the Twentieth Century, London 2014.

Gerit von Leitner, Wollen wir unsere Hände in Unschuld waschen? Gertrud Woker (1878-1968) Chemikerin und die Internationale Frauenliga 1915-1968, Berlin 1998.

Dieter Riesenberger, Geschichte der Friedensbewegung in Deutschland. Von den Anfängen bis 1933, Göttingen 1985.

 Reiner Steinweg (Hg.), Lehren aus der Geschichte? Historische Friedensforschung, Frankfurt a.M., 1990.

Dietmar Süß, Tod aus der Luft. Kriegsgesellschaft und Luftkrieg in Deutschland und England, München 2011.