憲法を求め続ける琉球/沖縄と植民地主義

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憲法を求め続ける琉球/沖縄と植民地主義

沖縄大学

髙良沙哉

 

キーワード:植民地主義 日本国憲法 平和主義 独立 先住民族

 

1 本報告の目的

 今年5月15日、琉球/沖縄は日本本土「復帰」45年を迎えた。もう45年も形式的には日本国憲法の下にあることになる。

 しかし、琉球/沖縄が、米軍占領下の人権の蹂躙から、人権保障と非武の平和主義を掲げる日本国憲法を求めて、日本に「復帰」した1972年以降も現在まで、琉球/沖縄は実質的な意味で憲法から排除されている。日米安保条約を頂点としたもう一つの法体系が、最高法規たる日本国憲法に優越し、憲法を脅かす形で存在している現実の中で、琉球/沖縄は、在日米軍基地の集中する地域として日本本土の憲法9条実現を支えながら、平和的生存権を含む多くの人権を侵され続けている。

本報告では、沖縄の現状を振り返り、憲法無適用状況の根本にある植民地支配を見つめ、植民地と憲法との関係と、沖縄における平和的生存権その他人権の実現に求められる憲法学・平和学のあり方、日本自身の植民地政策からの自立を問う。

 

2 琉球/沖縄の現実

(1) 反映されない政治意思

 形式的には、日本に「復帰」したことによって、日本の一自治体として、憲法の範囲内にある。沖縄県民は、日本国籍を有し、国政に参加するための選挙権も有している。

 沖縄は、その選挙区から代表者を出すこともできる。沖縄は形式的に日本であり、沖縄人は日本人だ。形式的には日本の一部として憲法が「適用され」、選挙権もあり国会に代表者を出すこともできているため、日本の琉球/沖縄に対する植民地支配は見えにくい。

 しかし、琉球/沖縄の人口は、日本全体においては絶対的少数者だ。代表者を出せたとしても、琉球/沖縄からのごく少ない代表者が、日米安保条約から派生する不利益について訴えても日本の政治を動かすだけの力にはなかなかなりえない。琉球/沖縄の政治的意思が日本の政治に反映されるのはほとんど不可能だ。だからこそ、琉球/沖縄に安保の負担を負わせ続けることができている。 

                   

(2)琉球/沖縄の現実

  • 2014年4月28日の政府主催の主権回復式典
  • 鳩山由紀夫政権下での「最低でも県外」の拒絶
  • オスプレイの強制配備、継続した運行。米軍嘉手納基地における夜間訓練。パラシュート降下訓練の継続。
  • 高江ヘリパッド(オスプレイの離着陸のため)の建設強行と運用。その際の資材搬入のための自衛隊の利用。反対する市民に対する暴力的な排除。暴言(土人発言)。
  • 辺野古基地新基地建設の強行
  • 基地反対運動をする市民に対する政治活動の自由の侵害。不当逮捕と長期勾留。

                                     等

 

 沖縄に対する日本の差別的な扱いについて、「構造的沖縄差別」である「対米従属的日米関係の矛盾を沖縄にしわ寄せすることによって日米同盟を安定させる仕組み」と述べている。ここにいう日米関係の矛盾は、例えば、米軍基地との同居という沖縄にありふれた現実であり、「ヤマトの民衆にはほとんどみえなくなった」(新崎2017)。

 現在の目に見える弾圧の状況は、「沖縄の民衆が、戦後70年を超える闘いの歴史的経緯を踏まえ、自らの自治・自決の主張の正当性に自信を持ち始めている」ことと、日本の「軍事力重視の安全保障政策を推し進めようとする傾向」が同時並行的に進んでいるためであり、そのため、「沖縄の民意、住民の人権、自然環境の保全などはすべて無視あるいは軽視されている」(新崎2017)。

 

3 憲法と琉球/沖縄

(1) 平等原則

 日本の抱える植民地について、憲法どのように語ってきたか。特に琉球/沖縄についてどのように語ってきたか。

憲法14条の例示列挙事由「人種」に関する説明における先住民族、異民族の扱いについて。

 例:宮沢俊義:「日本国民の間には、人種の違いが少ないから、人種を理由とする差別は、日本では、あまり問題になったことがない」という認識をしている(宮沢1994)。

 伊藤正巳:「異人種でわが統治権に服する者がきわめて少数であり、これを法的に差別することによる問題は他国に比べてすくない」(伊藤2007)。

 

 「憲法学者による日本国憲法の解釈では、アイヌ民族に対する差別はほとんど無視されてきた」。「うち続く差別にアイヌ民族の個人や運動体が悲痛な声を挙げ、国連の人権小委員会やILOなどで問題が浮き彫りになり、さらに、行政の調査などでもアイヌ人に対する差別が指摘されている最近になってもなおほとんどの文献が沈黙を守っているとすれば、それは数十万名の人権侵害にたいする恥ずべき無知」だと指摘されるように(江橋1991)、従来から先住民や異民族につての記述は少ない。

 

 例:芦部信喜:「日本では、アイヌ人・混血児・帰化人が問題となるが、とくに注目されるのはアイヌ民族問題である」(芦部2015)

 記述していたとしても、アイヌ、在日朝鮮韓国人についてであり、琉球/沖縄についての記述はみられない。当事者は、日本において差別された経験を有しているものの、憲法の中で、琉球/沖縄に対する根深い差別は語られてこなかった。

 琉球/沖縄は憲法の中で見えない存在。

 

(2) 平和主義、地方自治

 琉球/沖縄には、安保と憲法の矛盾が明確に表れている。憲法学では、憲法9条概念と安保条約を頂点とする法状態との矛盾を指摘してきた。

 しかし、沖縄からみれば、安保の問題は平和主義の問題であると同時に人権問題である。基地の集中という差別的構造によってもたらされる人権侵害を語る必要があるのではないか。

 また、最近では、辺野古新基地建設は自治の問題であり、地方特別法にかかわる住民投票をすべきものだという意見が聞かれるようになった。正当な主張のように思えるが、そもそも辺野古の問題を地方特別法制定にかかわる事案だと考える国会議員がどれだけいるのかと考えると、実現は容易ではない。

地方自治の問題であるという原則論は、植民地主義を背景とした琉球/沖縄についてはかなりの困難が伴う。

 

4 内なる「日本人」との闘い

 今年、朝日新聞、沖縄タイムス、琉球朝日放送が実施した沖縄県内世論調査では、「復帰」してよかったと答えた人が、83%と依然として高いことが示されている。一方で、「より強い自治体」を求めた人が51%もおり、最近の自立や自己決定権を求める沖縄の状況を映しだしている。また、琉球独立については4%と少数であった。しかし、日本に「復帰」して以降も独立の議論は消えていない(『沖縄タイムス』2017年5月12日1、2、3面)。

 

 知念秀紀・宮里護佐丸は、先住民族に関する記述の中で、琉球/沖縄の側から植民地主義を問いにくい状況を次のように指摘する。長い植民地支配では、被支配者の側に同化政策があまりにも内在化し認識しづらくなっている。また、沖縄においては、米軍基地問題があまりにも過酷であるために、基地問題の根底にある植民地の問題にまで手が回らないという現実がある。さらには、日本人との関係が深くなっているために、日本人に遠慮して主張できないということもある(知念・宮里2004)。

 琉球/沖縄は「復帰」を強く望んだ。しかし、「復帰」は、琉球/沖縄が望んだ状況を作りださなかった。琉球/沖縄と日本との関係が、武力による侵攻、植民地主義に始まる以上、より強い自治を求める議論、独立の議論がなくならないのは当然。

 しかし、独立を主張する者への過剰反応がある。

 琉球/沖縄は、日本あるいは中国、または米国といった大国も所有物ではない。どこかに帰属するという視点じたいが植民地主義的である。 

 

5 おわりに

 近年、独立研究・活動や自己決定権の主張、基地引き取りの主張など、日本と沖縄との関係性、沖縄の独自性を意識した主張がみられるようになった。

 特に、独立研究・活動についていえば、独立議論の主体は誰なのかを意識することが大切だ。琉球人/沖縄人は、「私は何者であるのか」と自問してきた。琉球人/沖縄人であるとみずから主体的に考える者が、当事者として議論した結果として独立をしようとするとき、日本人に何ができるのかを自らの問題として議論することが、植民者には求められる。琉球/沖縄から求めることは、例えば、再び武力で鎮圧しないこと、日米の軍隊を撤退させ、植民地支配による責任を負うことなどが考えられる。

 日本と琉球/沖縄の関係を考えるときに、日本の植民地主義を直視することが、憲法の矛盾や憲法が見落としてきたことを発見することにつながり、植民地の人々の権利回復につながると考える。

 そして、沖縄に頼らない安全保障政策を考える必要がある。植民地主義と決別しようとするとき、安全保障を植民地に頼ってきたことから目をそらすことはできない。その安全保障政策が憲法の平和主義の実現であってほしい。

 植民地主義を考えることは、同時に日本の植民地主義からの自立を考えることではないだろうか。

 

参考文献

 芦部信喜(2015)(高橋和之補訂)『憲法第六版』岩波書店

 新崎盛暉(2017)「日本にとって沖縄とは何か」『環境と公害』第46巻3号

 伊藤正巳(2007)『憲法第三版』弘文堂

 江橋崇(1991)「先住民族の権利と日本国憲法」樋口陽一、野中俊彦編集代表『憲法学の展望』有斐閣

 知念秀紀・宮里護佐丸(2004)「沖縄にとっての先住民族の10年」上村英明監修、藤岡恵美子・中野憲志編『グローバル時代の先住民族―「先住民族の10年」とは何だったのか』法律文化社

 『沖縄タイムス』