韓国憲法における平和条項の制定過程と特徴

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日本平和学会2017年度春季研究大会

自由論題部会②

 

韓国憲法における平和条項の制定過程と特徴

 

立命館大学国際地域研究所客員協力研究員・立命館大学大学院国際関係研究科研究生

申 鉉旿(シン・ヒョンオ)

 

キーワード:憲法平和条項、侵略的戦争否認、個別的自衛権、民主化、平和統一、「二つの法体系」論

 

1.憲法平和条項の定義と特徴――日本国憲法における平和条項の例から

・憲法平和条項:一般的に軍事力と戦争を規制し、戦争権限を議会がコントロールする条項として定義。

・憲法の平和条項としては日本国憲法第9条がその代名詞:一切の戦争と戦力保持を禁止していることから絶対平和主義の見方が引き出されると同時に、自衛隊の存在および行動と日本国憲法第9条の制約をギリギリに両立させて軍事力と戦争の克服を目指していく積極的な行動を必要とする漸進的平和主義の見方もあり得ることにその特徴がある。

・以上のような日本国憲法の二つの側面:戦後日本国憲法の制定過程から考えると、正戦論の立場に立っている憲法の平和条項の世界的潮流とは明らかな違いがある。Ex. 不戦条約(1928)

➡日本国憲法としての特徴

 

2.韓国憲法における平和条項の起源――歴史的背景

・日本から独立した1945年8月以降、軍隊を称する多くの軍事団体が設立された。彼らは、独立後の混乱を防ぎ、秩序を保つためと、日本帝国主義のような外部からの侵略に対する自衛のための軍事力を切望した。

・この時期の韓国における戦争と軍備に関する議論は、無論戦争に対する否定的な評価が中心であったが、その根元に日本帝国主義の再侵略に対する強い警戒心があったのは言うまでもない。

➡侵略戦争の否定を規定した第1共和国憲法の第6条は、植民地支配の苦い経験から始まった自衛意識に基づいて制定されたと見ることができる。さらに、このような自衛意識は、日本の本土は軍国主義を懸念して非武装とするが、沖縄一帯に空軍力を強化して小規模の陸軍中心の軍隊を韓国に編成しようとする米国の対東北アジア軍事戦略にも沿うものであった。

・ところで、第1共和国憲法の第30条で「すべての国民は、法律の定めるところにより、国土防衛の義務を負う」と規定しながらも、ドイツ基本法の第4条3項のような良心を理由とした代替役務の可能性は開いていなかった。

 

3.韓国憲法における平和条項の起草と制定――憲法平和条項の基本思想(侵略的戦争否認)

・第2次世界大戦後に独立して1948年に制定された大韓民国の初代憲法(第1共和国憲法)

➡不戦条約の法理が憲法の平和条項として明文化されたと見ることが可能。

・第1共和国憲法前文:「外には恒久的な国際平和維持に努力」

・第1共和国憲法第6条:「大韓民国は、全ての侵略的な戦争を否認する。国軍は、国土防衛の神聖な義務を遂行することを使命とする」と規定。

➡憲法制定当時としては特筆するほどの条項であったが、これに対して憲法草案の起草委員の一人であったは、以下のようにその趣旨を説明した。

 

 第6条で侵略戦争を否定していると規定しているが、それは次のような意味です。現在、世界の主要国家が「戦争放棄に関する条約」に加入しています。そして、そこには、戦争放棄に関して規定しています。この憲法草案は、その基本精神を承認しているものです。戦争を放棄するというのは、国家を防衛する権利と義務まで放棄する意味ではありません。(中略)軍隊は、侵略戦争を行う軍隊ではなく、国土防衛の遂行を使命とする防衛的な軍隊です

 

・上記の説明の下線部は、フランス憲法とフィリピン憲法、そして、日本国憲法を参考にしたと見られる。

 

4.韓国憲法における平和条項の意味と特徴①――「軍隊」を置いたままの憲法平和条項

・しかし、は、次のような説明を続けた。

 

 このたびの戦争を経た以降、新たに制定された憲法のうち、戦争を放棄する条文が入っているものがありますが、言い換えれば、国軍を置かない条文を置いている憲法の例があります。(中略)我が国は敗戦国ではありません。すなわち、侵略戦争を否認していますが、同時に国軍を置いています。その軍隊は、侵略戦争を起こすための軍隊ではなく、国土防衛を遂行することを使命とする防衛的なものであります。

 

・「国軍を置かない条文を置いた憲法の例」:初代大韓民国憲法より2年前に制定された日本国憲法

・戦力の放棄が侵略戦争を起こした国家に対する懲罰的意味を含めているのを示している。そのため、大韓民国憲法においても侵略戦争を否定しているが、同時に国軍を置いているのに対し、軍隊の使命および役割を「国土防衛」に限定したと言える➡大韓民国憲法における平和条項の核心

・この「国土防衛のための軍隊を認めながら侵略戦争を否定」する韓国憲法の平和条項は、その起草過程において南北分断による北朝鮮の存在と脅威、すなわち、朝鮮半島を巡る冷戦状態が考慮されたのではないかと見られる。

・ただし、国土防衛に任務が限られる防衛的な軍隊であるとしても、攻撃的な特殊集団である軍隊を容認した以上、それに対する様々な憲法的制約が加えられた。軍隊の組織と編成は国会の統制を受けるようにし、大統領は宣戦布告と講和に関する権利を有するが、大統領の独断で決定不可能であり、国務会議の議決と国会同意を必要とした。

➡大統領が独断では国軍をコントロールすることを抑止し、国会の同意を必要としたことで、軍に対する「市民による統制の道を開いて置いたと評価できる 。

 

5.韓国憲法における平和条項の意味と特徴②――個別的自衛権と集団的自衛権

・韓国には1945年8月以降約3年間米軍政実施:憲法の外国軍駐屯および集団的自衛権関連規定は?(疑問)

・第1共和国憲法は、外国軍の駐屯または集団的自衛権による実質的手続規定を置いていない。各種条約に関する国会同意権を規定した第42条の場合も「国会は国際組織に関する条約、相互援助に関する条約、講和条約、通商条約、国家または国民に財政的負担を負わせる条約、立法事項に関する条約の批准と宣戦布告に対して同意権を有する」と規定しているだけである。

➡そのため、第1共和国憲法における平和条項は、集団的自衛権ではなく、個別的自衛権のみを容認したものであると見ることができる。

 

6.韓国憲法における平和条項の定義および位置付け

・1948年第1共和国憲法の平和条項:侵略的戦争否認を規定した第6条を中心に、軍に対する「市民による統制」と「個別的自衛権」の容認を骨子とした内容として定義付けられる。

・その特徴として、韓国の第1共和国憲法は、同様のマッカーサー司令部下で制定された日本国憲法(第9条)とは異なり、自衛権および戦力を放棄する「非武装平和主義」を掲げなかった。

・第6条で軍隊における条項を設け、その任務を国土防衛に限定する自衛権形態としたことが挙げられる。

 

7.軍に対する憲法的制約問題――「二つの法体系」論へのつながり

・一方、1948年の初代大韓民国憲法の制定時に受容された平和条項は、1987年に民主化されるまで数回の憲法改正を経る間、自らの役割が果たせなかった。それは1961年の軍事クーデターで韓国軍が政権をとる事態があり、憲法がそのような事態をコントロールできなかったことから説明できる。

➡軍に対する憲法的制約が機能しなかったことである。

・ところで、1987年の民主化による第6共和国憲法の成立時からようやく自らの役割が果たせる基盤が備えられるようになった。しかし、大韓民国政府成立直後の1948年12月1日に制定された国家保安法と1949年8月6日に制定された兵役法、そして、朝鮮戦争直後の1953年10月に成立された「米韓相互防衛条約」とそれに基づく地位協定が一つの安保法体系を形成し、第6共和国憲法成立後もこれらの法律はそのまま残ったので、大韓民国憲法における平和条項と矛盾・並行していくことになる。

➡このような現象は、現行韓国憲法が制定された後でも変わりなく続けられており、憲法体系と安保法体系が各々矛盾・対立しているという意味が骨子である「二つの法体系」論を作り出している。すなわち、1987年の民主化による第6共和国憲法の制定に基づき、ようやく憲法平和条項がその目的を達成することが可能になった(軍に対する憲法的コントロール)。

・ところが、今日までも国家保安法や兵役法、米韓同盟が一つの安保法体系を作り、憲法平和条項と対抗している為、韓国においては今でも憲法平和条項が完全に実現できない状況であると言わざるをえない。

韓国憲法の平和条項における「二つの法体系」論という論点がありうる。

 

8.今後の論点――韓国憲法における「二つの法体系」論は成り立つだろうか。

・憲法平和条項体制は5条1項(侵略的戦争の否認)と2項(国土防衛)、4条(平和統一)、前文(平和統一)、74条(文民統制)、「国土防衛軍」としての軍の使命および政治的中立性(5条2項後段)を前提。

・国家保安法、兵役法、米韓同盟はこのような「平和条項体制」を逆行している安保法体系として見ることが可能➡米軍基地移転による「平和的生存権」侵害など:「二つの法体系」論。

・しかし、現行大韓民国憲法は3条(領土条項)、4条(自由民主的基本秩序による平和統一)を規定。

➡自由民主的基本秩序とは自由民主主義から後退したもの(戦う民主主義):安保法体系基盤(収斂?)

・「二つの法体系」論とは、憲法体系と安保法体系の矛盾・対立という2つのピラミットであるのに対し、

韓国憲法における「二つの法体系」論は入り組んだモザイクである示唆➡今後の研究課題

 

参考文献

 

日本語文献(五十音順)

 

 君島東彦(2012)「平和憲法の再定義」日本平和学会編『平和を再定義する[平和研究第39号]』早稲田大学出版部

 君島東彦(2014)「六面体としての憲法9条――脱神話化と再構築」

 君島東彦他編『戦争と平和を問いなおす――平和学のフロンティア』法律文化社

 君島東彦(2016)「ダイナミックなプロセスとしての憲法平和主義――リベラルからの九条改正論に抗する」

 日本科学者会議編『日本の科学者』第51号、本の泉社

 日高六郎(2010)『私の憲法体験』筑摩書房

 広島市立大学広島平和研究所編(2016)『平和と安全保障を考える辞典』法律文化社

 深瀬忠一(1996)「戦後五十年の世界の『諸憲法と国際平和』の新たな展望――国際憲法学会第四回世界大会と『憲法と平和』部会の意義(1-7・完)」『法律時報』第68巻1-4号、7-9号、日本評論社

 

 

韓国語文献(가나다順、なお、表紙が漢字で書かれている文献は、そのままで標記)

 

 朴一慶(1955), 우리나라 憲法과 平和主義(我が国の憲法と平和主義), 『法政』第10巻7号

 成楽寅(2005)『憲法学(第5版)』法文社

 이경주(1999), 한・일 헌법의 평화주의에 대한 비교연구, 세계헌법연구 제 4호(李京柱「日韓憲法の平和主義に関する比較研究」『世界憲法研究』第4号)

 이경주(2014), 평화권의 이해, 사회평론사(李京柱『平和権の理解』社会評論社)

 鄭宗燮(2002)『韓国憲法史文類』博英社

 憲政史資料第1輯(1967)『憲法制定会議録(制憲議会)』国会図書館