南アフリカ・ハウテン州の地方政府の平和政策 ~ジョハネスバーグ市とセディベング郡自治体の事例から~

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日本平和学会2017年度春季研究大会

報告レジュメ

 

南アフリカ・ハウテン州の地方政府の平和政策

~ジョハネスバーグ市とセディベング郡自治体の事例から~

 

呉工業高等専門学校

藤本 義彦

 

キーワード:平和、地方政治、地方自治、民主化、制度論、人権、人種差別

 

1.はじめに

 1994年の民主化以後、南アフリカでは、国民に最も身近な政府機関である地方政府を「民主化」し、効率的な行政サービスを提供することを目的とした地方政府の改革が進められている。2000年に根本的な地方制度の改革を実施し、その後も改良が行われているにもかかわらず、当初、期待された効率的な行政サービスの提供は未だに「不十分」という評価が続いている。改革の方向性が、住民に対する行政サービスを提供するというという目的に合致しているのかを改めて検証してみる必要性があろう。

 地方政府の制度的改革が行政サービスの提供を効率的に行うために進められていることは、さまざまな報告書で示されているとおりである。そこで、本報告では、中央政府が行おうとする改革の方向性とは真逆に、住民の視角から改革を評価するために、地方政府が実施・関与する「平和政策」を事例として取り上げる。各地域にはさまざまな課題があり、それらの課題を地域の住民が身近な政治組織と協働して解決していくことが求められる。地方政府が地域の課題を解決しようとする過程を検証することで、住民の視角から、地方政府改革の方向性に関わる課題を考えてみたい。

 分析の対象とする地方政府は、ジョハネスバーグ市とエンフレニ地方自治体である。ともに、都市部にある地方政府の特徴を持ち、南アフリカでは比較的に経済的に豊かな地域のハウテン州に位置している。

 

2.地方政府による「平和政策」の事例

 平和が意味するものは、それぞれの国家や地域の歴史によって特徴づけられる。南アフリカでは、アパルトヘイト政策の歴史から、人種差別や人権が「平和」を考える際のキーワードとなる。

(1)ジョハネスバーグ市

①アパルトヘイト博物館 Apartheid Museum

 アパルトヘイト政策の歴史を実体験できるように整備された博物館。2001年に開館。建設費約8000万ランとはアカニ・エゴリ社(ゴールド・リーフ・シティの運営会社)が拠出し、運営に関しては、新たに設立された基金が担い、寄付や入館料などがあてられている。

 地方政府の関与は、ほとんどない。アカニ・エゴリ社が建設費を拠出したのは、カジノを運営する許可を取るためには、観光資源の開発と地域経済活性化に貢献することが求められたためであった。

②マンデラ・ハウス博物館 Mandela House Museum

 観光資源として開発して、地域経済の活性化に資するために、ネルソン・マンデラ氏がソウェトにある自宅を、ソウェト遺産基金(Soweto Heritage Trust:1997年設立)に寄贈した。マンデラ・ハウスの公開にあたり、人権、民主主義、和解、相互尊敬、忍耐を促すために、博物館として整備した。近接する場所にデズモンド・ツツ大司教の家もあり、観光客を集めている。

③ヘクター・ピーターソン博物館 Hector Pieterson Museum

 1976年のソウェト蜂起での出来事を祈念した博物館。2002年6月16日に設立された。建設費は約2320万ランとで、1600万ラントはハウテン州の環境観光局が拠出、残る720万ラントはジョハネスバーグ市議会からの寄付で賄った。運営に、地方政府は直接かかわらず、基金を設立し、融資が運営する基金に資金を寄付することで運営に関与するにとどまっている。

(2)セディベング郡自治体のエンフレニ地方自治体

④シャープビル人権遺蹟 Sharpeville Human Rights Precinct

 1960年のシャープビル事件を祈念してつくられた遺蹟。マンデラ大統領は、1996年12月シャープビルで現行の南アフリカ共和国憲法の最終草案に署名した。これを契機に、遺蹟が建設されることになった。

 遺跡に近接して、エンフレニ地方自治体の博物館と図書館が併設された。図書館は開館しているが、博物館は未だ未整備の状態。図書館の司書やボランティアがシャープビル事件の証言や資料を収集しているが、配置された人員が不十分で思うように進んでいない。そのため、観光資源として活用できずにいる。

 

3.地方政府改革の方向性の課題

①住民の視角から見える平和政策

 共通している点は、観光資源としての活用とそれによる地域経済活性化と雇用の創出への期待である。平和という概念から遠くにあるように思える期待であるが、住民にとって最も期待が大きく、切実なものでもある。

 同時に、運営などの中心となっている人々は特に、アパルトヘイトの歴史を後世に伝え、人種差別のない、人権が守られる社会を創る糧としたいという思いは強い。また、アパルトヘイトに抗する闘争に関与してきた人も多く、現在の地方政府の要職を占めていたり、要職を占めている人物と密接な関係にあるものも多いため、地方政府に働きかけたり、地域社会に働きかけたりする者もいる。

②地方政府から視る平和政策

 地域経済活性化のために協力できることは協力していくという姿勢。必ずしも、積極的に関与しようとしていない。

 消極的な姿勢を取る原因は、次のようなものであろう。

 第一は、地方政府の資金にかかるものである。地方政府の独自財源は、電気、水道などの使用料金や、公的施設の使用料などであり、必ずしも大きくはない。中央政府・州政府により提供される補助金は、使途が定められているため、独自に使用することができない。地方政府の独自財源の少なさが、地方政府独自の「平和政策」を採ることを制約している。

 第二は、地方政府に期待される役割によるものである。南アフリカの深刻な問題である人種ごとの経済格差を是正するため、地方政府には「Developmental Local Government」として地域経済を活性化するための開発計画(Integrated Development Plan: IDP)の策定が義務付けられている。IDPの中心的関心は、地域住民に効率的な行政サービスを提供するための開発政策の策定である。平和などの問題も、地域経済の活性化や開発に関わる範囲において言及されるにすぎない。

 第三は、地方政府と政党の問題に関わるものである。南アフリカの地方政府の多くは、アフリカ民族会議(ANC)が与党となっている(藤本(2016))。PACが主導したシャープビル事件や、学生組織が主導したソウェト蜂起は、反アパルトヘイト運動として重要なイベントであっても、ANCが直接的に関わった者ではない。そのため、政治的に消極的な姿勢をとる地方政府議会の議員は少なくない。

 

5.おわりに

 農村地域で土地の所有権をめぐる改革が順調に進んでいないのは、アフリカ人の土地に対する意識に合致しない政策を進めようとしているからだという指摘がある(Kingwill 2006)。地方政府改革では、合理性や、近代性、民主性といった価値観に基づく政策が実施され、住民の多くがもつ「アフリカ的な価値」なるものとは非民主的だとして否定されてきた。また効率的ではないと排除されてきた。

 「アフリカ的な価値」がいかなるものかは今後の研究課題としつつも、民主化、近代化、合理化、効率化などの特定の価値観に基づく地方政府改革には、限界があるのではないだろうか。

 

 

参考文献

 藤本義彦(2016)「南アフリカにおける2016年地方選挙と今後の政治動向:ANC一党優位体制は揺らぐのか?」呉工業高等専門学校研究報告 第78号、23-32頁。

 藤本義彦(2013)「地方政府改革の動向と課題:民主化の『第二段階』に向けて」牧野久美子・佐藤千鶴子編『南アフリカの経済社会変容』(研究双書No.604)アジア経済研究所、249-283頁。

 Parnell, Susan et al ed. (2002), Democratising Local Government; the South African Experiment, Cape Town: University of Cape Town Press

 Kingwill, Rosalie et al (2006), “Mysteries and myths: De Soto, property and poverty in South Africa” Gatekeeper series 124, International Institute for Enviornment and Development.

(http://pubs.iied.org/pdfs/14517IIED.pdf, accessed on 6 May 2017)