2024年 春季研究大会プログラム

 

大会テーマ 「戦争と平和の根底に交差するレイシズム、セクシズム、ナショナリズム」

 

2024年 6月1日(土)・2日(日)

会場:学習院大学

 

(フルペーパーは大会終了後、1〜2週間ほど掲載されます)

 開催趣旨

 

 絵本でねこのポーポキが問いかける。「あなたの平和は、ほかの人の平和と関係がありますか。相手が平和でないとき、あなたは平和になれますか」(『ポーポキ、平和って、なに色?』より)。ウクライナ、ガザ、ミャンマーといった海外での戦争や様々な暴力のみならず、日本国内での暴力も、どの程度私たちの平和学の射程に入るのでしょうか。どのようなものが入り、どのようなものが抜け落ちるのでしょうか。いま日本を含めて世界各地で分断が広がっています。セクシズム、レイシズム、ナショナリズムに基づく言動で自らのアイデンティティを主張し、相手を否定する暴力が絶えません。私たち自身は暴力を分析し、その是正を目指しながらも、無意識に社会的な暴力の存続に加担しているかもしれません。そこで、2024年度春季研究大会では、日本社会や私たちの日常生活の根底にある複雑で重層的な暴力を浮き彫りにし、その原因を探るとともに、抵抗の仕方を模索します。この作業を通じて、日本での日常的な平和づくりの重要性を確認するとともに、この困難な時代において、日本の平和学が果たすべきこととは何か一緒に探りたいと思います。

 部会1は2023年12月に日本平和学会理事会有志によって発表された「パレスチナでのジェノサイドの危機を憂慮し、平和を希求する人々と連帯する声明」を取り上げて、その経緯や課題を明確にし、日本平和学会の今後の方向性や展開を探ります。部会4は、市民運動の立場からベトナム戦争をはじめとする戦争反対活動を取り上げます。その時代の運動家がどのような「平和」を語り、どのような連帯を目指し、私たちにどのような教訓や課題を残してくれたかを検証し、様々な次元においてのつながりを探ります。部会5では、日本に強制的に、あるいは難民や経済移民として日本に「平和」を求めてやってきた人の子どもが直面している状況を取り上げます。日本で生まれた二世、三世の子どもは、日本でどのように暮らし、どのような課題を抱え、どのような人間関係を築いているかを検証し、彼らにとっての「アイデンティ」の複雑な意味を考察します。さらに、これらの問題を個人として考える場として、第2回「平和学会で平和学する」カフェを開催します。

 これらの事例は、他者と自分との関係性を検証する機会として捉えることができます。平和の根底に見え隠れするレイシズム、セクシズム、ナショナリズムを浮き彫りにしながら、「平和」の多面性や交差性を明確にすることです。「私たち」とはだれか。「私たちの平和」とはなにか。それが「他者」とその「他者の平和」とはどのように関係しているか。二元論に基づく分析ではなく、「他者」を含めて(多様な)「私たち」はどのようにすれば共通の平和を創ることができるかについて、様々な専門性や視点を持つ会員と一緒に議論し、より鋭い「平和学」を模索することは、「絶対に戦争をさせない」ことを目指す平和学会の使命であると考えます。

 

第25期企画委員長 アレキサンダー・ロニー 

 

6月1日(土)

 

9:30-11:30 部会1ラウンドテーブル「パレスチナでのジェノサイドの危機を受けた声明作成ワーキンググループの思いと日本平和学会の役割」(部会責任者 今野泰三 中京大学)西2  301教室

 2023年10月7日以降、イスラエルはガザ地区を完全封鎖して攻撃し、多大な破壊と被害をもたらした。これを受け、本学会理事会有志は12 月1日、「パレスチナでのジェノサイドの危機を憂慮し、平和を希求する人々と連帯する声明」を発表した。

 声明作成段階で理事会では、①「ジェノサイド」の文言の使用、②ハマース等の10月7日の行動の評価、③BDS(ボイコット・投資引揚・制裁)への言及、④イスラエルの学術団体との連携可否、⑤国連安保理決議への言及等について議論があった。

 本部会では、上記議論を踏まえ、声明作成ワーキンググループが、声明作成の思いや、その後の各メンバーの活動内容を会員と共有する。そこから平和学者や平和学会として、いかに事態を受け止め、いかに行動していくべきかを話し合いたい。

 

登壇者:金城美幸(立命館大学)

登壇者:田浪亜央江(広島市立大学)

登壇者:役重善洋(同志社大学)

登壇者:高橋宗瑠(大阪女学院大学)

司 会:今野泰三(中京大学)

 

9:30-11:30 自由論題部会1(単独報告):(部会責任者 斎藤小百合 恵泉女学園大学)西2  305教室

 

報告:本山央子(お茶の水女子大学)「日本の国家安全保障再定義と普遍的価値・ジェンダーの領有」

報告:佐々木陽子(南山大学)「芸術が作り出す多声と公共圏―パレスチナ芸術の対話的鑑賞プロセスの分析」

報告:許美善(早稲田大学大学院)「韓国・朝鮮人元BC級戦犯における植民地主義の連続性―スガモプリズンの所内誌『郷愁』の分析を中心に」

討論:君島東彦(立命館大学)

討論:内海愛子(新時代アジアピースアカデミー)

討論:レベッカ・ジェニソン(京都精華大学)

司会: 斎藤小百合(恵泉女学園大学)

 

11:40-13:00 総会・平和賞式典

 

13:00-13:30 平和学カフェ (カフェ責任者 ロニー・アレキサンダー(神戸大学)/ファシリテーター 企画委員会メンバー) 西2  305教室

  2023年の秋季研究集会において、企画委員会の新たな取り組みとして、第1回目「平和学会で平和学する」カフェが開催されました。好評だったので、今回は第2回目の開催を試みることにしました。目的は、部会や分科会では取り上げにくいテーマやしにくい話を「カフェ」という形でリラックスして議論できる「平和学の空間」を学会のプログラムに取り入れることです。テーマ別のテーブルを設けて、参加者に興味あるテーマを選んでもらい、集まった人で自由に話したりする、という形態です。もちろん、途中で場所を変えてもかまいません。予定のテーマは以下の通りです。①「仕事を平和学する」テーブル、②「平和のための運動を平和学する」テーブル、③「多面的に平和学する」テーブル、④「とにかく、おしゃべりして平和学する」テーブル、⑤「『絶対に戦争をしない』ために平和学をする」テーブル、⑥「ハラスメントについて語ろう」テーブル。ご気軽にご参加ください。お待ちしています。

 

13:30-15:30 分科会

 

15:40-17:40 部会2(開催校企画)「戦争と平和のαἰτία〔アイティアー[原因、動機]〕」部会責任者 青井未帆 学習院大学) 西2  301教室 

 ペルシア戦争とペロポネソス戦争という二度の大戦が終わり、革命の後、民主政下での再繁栄を経つつも強国マケドニアの軍門に屈した古代ギリシアのアテナイは、どこか昭和の日本を想起させる。その昭和の日本には、戦中・戦後の政治的問題を同時代的に考察したギリシア哲学の碩学であり、保守系論客としても活躍した田中美知太郎がいた。本部会では、以下の順に議論の材料を提供し、古代ギリシアと近現代日本という時代も地域も超えた二つの実例から戦争と平和、その原因や動機、またそもそもそのようなものが考え得るのかといった問題を考えて行きたい。

 

報告:麻生多聞(東京慈恵会医科大学)「安全保障における『恐怖の感情』の位置づけ-トゥキディデスによる示唆の実相について」

報告:井上寿一(学習院大学)「近現代日本の戦争と平和」

報告:小島和男(学習院大学)「戦後のギリシア哲学研究者の考えた“戦争と平和”」

討論:市川ひろみ(京都女子大学)

司会:青井未帆(学習院大学)

 

15:40-17:40 自由論題部会2(パッケージ企画)「権力とメディア」 (部会責任者 高橋博子 奈良大学) 西2  305教室

 日本国憲法第21条では「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障」され、検閲を禁止し通信の秘密は守られなければならないとしている。放送法第三条では「放送番組編集の自由」が謳われている。また日本新聞協会が採択した新聞綱領には「国民の『知る権利』は民主主義社会をささえる普遍の原理である。この権利は、言論・表現の自由のもと、高い倫理意識を備え、あらゆる権力から独立したメディアが存在して初めて保障される」と謳われている。これは占領下で占領軍に対する批判を禁じたプレスコード(新聞綱領)とは対極的な綱領である。いずれも第二次世界大戦戦前の権力による言論・表現への介入への深い反省のもとに策定されている。しかしながら現在、メディアの権力からの言論・表現の自由は守られているのであろうか。権力の見解を広報する報道機関になっているのではないだろうか。本部会ではメディアと権力の問題、その中での平和研究の役割について議論したい。

 

報告:大森淳郎(元NHK放送文化研究所研究員、元NHKディレクター)「戦争と国策放送」

報告:青木美希(ジャーナリスト)「原発安全神話に加担したメディア」

報告:高橋博子(奈良大学)「平和と言論の自由を守る“プレスコード”」

討論:七沢潔(ジャーナリスト、中央大学)

討論:金平茂紀(ジャーナリスト)

司会:平井朗(ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会事務局)

 

 

6月2日(日)

 

9:30-11:30 部会3(「気候変動と21世紀の平和」プロジェクト委員会/「平和学の方法と実践」分科会 共催) 「ノン・ヒューマンの平和学ーヒトを生かしてきたものたちの地平」(部会責任者 前田幸男 創価大学) 西2  301教室

 「今だけ、金だけ、自分だけ」の世界観が社会のあらゆるところに蔓延っている。このマインドセットは政治・経済・戦争・文化芸能など、実に様々な分野を横断しながら人々の思考を規定している。このマインドセットが関係性を分析する上でも足枷となり、思考を狭隘化させるのではないだろうか。こうした状況に対して、平和学はどのような処方箋を提供していくことができるだろうか。

 平和学は様々な関係性に着目する。しかし、これまでの議論の多くは、いわゆる現在のシステムを回している「近代的な主体像」を暗黙の前提として措定した上で、そこからの関係性を基に「平和」を考えていくが、それで十分に平和学を「関係性の学問」と自称することは可能だろうか。

 本部会では、均質的で平板な近代的主体を措定して考え始めるのではなく、往々にしてその外側に零れ落ちる「ヒト一般なるものを生かしてきたものたち」に注目したい。いまを生きる人々は何に生かされてきたのか。ヒト一般には限定されない、①自然や女性からの視座、②様々な生命やモノたちとの関係、③今日必ずしも生きているわけではないものたちとの関係、といった観点から、平和の関係・平和ならざる関係を考える機会としたい。

 

報告:鴫原敦子(東北大学)「サブシステンス視座の今日的意義と課題-エコフェミ論争再読と3.11後の現状から―」

報告:石井正子(立教大学)「平和学の可能性―食とバナナの観点から」

報告:島薗進(立正大学)「水俣運動が生み出したスピリチュアリティと平和のビジョン」

討論:勝俣誠(元明治学院大学)

討論:堀芳枝(早稲田大学)

司会:上野友也(岐阜大学)

 

9:30-11:30 部会4:「日本の反戦・平和運動の系譜から現在、そしてこれからを考える」 (部会責任者 大野光明 滋賀県立大学) 西2  305教室

 ウクライナ戦争とパレスチナでのジェノサイドが続くなか、日本では軍事費の増強や殺傷能力のある武器の輸出解禁などが急速に進み、私/たちは「戦前」を生きているとの指摘は重く響く。ここで立ちかえりたいのは日本の反戦・平和運動史である。この歴史のなかに、現在の状況に向き合い、これからの社会をつくるヒントがあるのではないだろうか。本部会では、ベトナム反戦運動やイラク反戦運動などの検討を通じて、危機的なこんにちの状況に向き合いなおす作業を試みる。それぞれの運動と時代において戦争はどのように問題化されたのか、また、戦争を生み出さないためのいかなる行動・思想がつくられたのか。これらの問いのもと、これからの反戦・平和運動をより豊かなものへとするための議論を参加者と共につくりたい。

 

報告:平井一臣(鹿児島大学)「反戦平和運動における体験・記憶・世代間継承―ベ平連の運動を手がかりに)」

報告:茂木遊(「海外派兵をやめろ!戦争抵抗者の会」、「沖縄を踏みにじるな!緊急アクション実行委員会」)「イラク反戦運動における世代間の断絶はどう問題化されたのか/されなかったのか」

討論:松本麻里(非核市民宣言運動・ヨコスカ)

司会:大野光明(滋賀県立大学)

 

11:30-12:00 昼休憩 

 

12:00-14:00 分科会

 

14:10-16:10 部会5 「日本における移民第二世代を考える」(部会責任者 森田豊子 横浜市立大学客員研究員) 西2  301教室

 本部会では、日本における外国人移民が経験する困難、特に第二世代が日本社会で自己実現をするのに立ちはだかる壁について議論し、日本の多文化共生の現状および今後必要なことについて考えたい。移民の第二世代の抱える教育や職業選択における諸問題については、近年に限ったことではなく、在日韓国・朝鮮人の子どもたちが自己実現を果たすために、教育や職業選択の権利獲得のために常に闘ってきた経緯がある。本部会では、このような教育や職業選択における国籍条項をめぐる歴史的経緯および、現状について議論し、今後、日本が多文化共生の実現のために何が必要なのかを模索する。

 

報告:進藤令子(タンペレ大学)「日本における多文化主義について」

報告:佐竹眞明(名古屋学院大学)「在日フィリピン人の第二世代をめぐる教育や就職に関する問題」

報告:宮下大輝(慶応大学大学院)「神奈川県公立学校における多文化共生への試み」

討論:森田豊子(横浜市立大学客員研究員)

司会:堀芳枝(早稲田大学)