韓国は1965年の日韓国交正常化以来、米国とともに日本の安全保障における重要なパートナーとしての関係を維持してきました。防衛省・自衛隊のホームページでは、韓国について次のように書かれてあります。「韓国は、歴史的にも、経済・文化などの各分野において我が国と最も密接な関係を有してきた隣国の一つであり、また、地政学的な観点からも我が国の安全保障にとってきわめて重要な国です。さらに、我が国と同様、民主主義、法の支配、人権の尊重、資本主義経済といった基本的な価値観を共有するとともに、米国の同盟国として米軍の駐留を認めているなど、その戦略的利害関係の多くが共通しています。このため、両国が、経済面だけでなく、安全保障面においても緊密に連携していくことは、アジア太平洋地域における平和と安定にとって大きな意義があります」。
しかし、近年の植民地支配認識および日本軍「慰安婦」らの戦時動員による被害者の人権救済などの「歴史問題」をはじめとする日韓対話の不調はこの分野にも及んでいます。2015年5月30日にシンガポールで4年ぶりの日韓防衛相会談が行われましたが、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)締結など、踏み込んだ防衛協力を約束するまでに至りませんでした。
当面、日本と韓国が軍事紛争を引き起こす可能性はほとんどありません。しかし、竹島/独島領有権をめぐる問題で自衛隊の活用を論ずる声は現在も後を絶ちません。例えば、2015年7月1日の衆議院わが国および国際社会の平和安全法制に関する特別委員会で、自由民主党の議員は、自衛隊が存在しない「力の空白」の時期に韓国が武装部隊を上陸させて占拠したと発言しています。また、2015年4月9日の参議院予算委員会で、維新の党の議員は、竹島をはじめとする離島に自衛隊基地などがなく、無防備であると指摘しています。
「歴史問題」や竹島/独島領有権問題など、日韓間に山積する課題は日韓の代表者が真摯に対話をして決着させなければなりません。隣国との信頼関係を構築する努力が日本の安全を保障する何よりの礎です。日韓国交正常化以来、両国間には緊密な人的、物的交流があります。年間500万人の人が往来し、両国ともに中国、米国に次ぐ、第3位の貿易相手国です。一つひとつの懸案について、顔と顔を付き合わせて話し合いができる関係はこれからも維持していきたいものです。(吉澤文寿)
参考文献
木宮正史・李元徳編著『日韓関係史1965-2015 Ⅰ 政治』東京大学出版会、2015年
安倍誠・金都亨編著『日韓関係史1965-2015 Ⅱ 経済』東京大学出版会、2015年
崔慶源『冷戦期日韓安全保障関係の形成』慶應義塾大学出版会、2014年
吉澤文寿『日韓会談1965 戦後日韓関係の原点を検証する』高文研、2015年
吉澤文寿『〔新装新版〕戦後日韓関係 国交正常化交渉をめぐって』クレイン、2015年
太田修『〔新装新版〕日韓交渉 請求権問題の研究』クレイン、2015年