100の論点:19. 対テロ戦争とは何でしょうか。

 テロリズムとは、暴力を用いることで人々に恐怖心を引き起こし、それを利用して政治的な目的を達成しようとするものです。政治の枠組みの中で自分たちの声に耳を傾けてもらえない人々が、異議申し立てのために用いてきた手段の一つです。目的の如何を問わず、その達成のために暴力に訴えることは許されるものではなく、国際社会は従来これを個別具体的に犯罪行為として類型化して対応してきました。

 ところが、テロリズムに警察による法執行ではなく、軍事力によって対応しようとしたのが「対テロ戦争」です。アメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領は、2001年9月11日に生じた同時多発テロを、アメリカに対する戦争であるとみなしました。議会が戦争権限法の枠内で大統領に軍の使用を認め、アフガニスタンに対する軍事作戦が行われ、NATOも集団的自衛権を発動しました。さらに2003年、ブッシュ政権は湾岸戦争終結時に倒せなかったイラクのフセイン政権に対して、根拠が薄いままテロとの戦いと称して軍事作戦を開始しました。

アメリカは「戦争」という名称を用いながら、拘束した敵国兵はテロリストであるため、ジュネーブ条約が定める捕虜には当たらないとしました。その一方で、テロリストには民間人への人権保護も適用されないとして、拷問にかけるなどの非人道的な対応をとりました。また、イラクやアフガニスタンで多くの民間人が、証拠もなくテロリストとされたり、戦闘に巻き込まれたりして、殺害されました。

テロリズムは罪のない人々を暴力の犠牲にする人道に反した行為です。しかし、アメリカの対テロ戦争が同じように人道を顧みないことは、国際社会に疑念を生みました。2005年に国連が作成したテロに対峙する方針の中では、テロリズムの人道問題だけでなく、テロ対策における人道問題をも重視するという見解が示されました。

バラク・オバマ政権では「対テロ戦争」という呼び名は使われなくなったものの、ブッシュ政権が始めた無人攻撃機による「テロリスト」の殺戮は、対象地や件数を拡大して続けられました。力に正義を語らせるのではなく、テロリズムが生じ、その主張に引き寄せられる人々が存在するのはなぜかという背景を考え、その根本的問題に対処していくことが、本当の意味でテロに向き合うことではないでしょうか。(大津留(北川)智恵子)

 

参考サイト:

テロに関する国際条約サイト   http://www.un.org/en/terrorism/instruments.shtml

国連テロ対策サイト   http://www.un.org/en/terrorism/ctitf/index.shtml

国防総省イスラーム国対策サイト   http://www.defense.gov/home/features/2014/0814_iraq/