現在大きな問題となっている安全保障関連法案の必要性は、「日本を取り巻く安全保障環境の厳しさ」という一言で説明される傾向にありますが、実際はこういった軍事大国化の動きの背後に経済的要因があると考えられます。
まず挙げられるのは、グローバリゼーションの進展です。1980年代後半から1990年代初頭にかけてのソ連・東欧圏の崩壊と中国の市場経済への転換は、地球規模での市場経済の急速な拡大をもたらしました。「ならず者国家」を軍事的に排除したりしながら、その巨大な市場秩序を維持する役割を超大国米国が担うことになりましたが、日本やNATOにその肩代わりが求められるようになります。
アフガン戦争やイラク戦争による米国の財政赤字問題の深刻化から、この流れはより強まります。また、これらの戦争の行き詰まりから、米国はアジア・太平洋地域を重視するリバランス政策を打ち出し、日本はそれに伴う中国封じ込めという役割も求められることになります。
一方で、プラザ合意以降の多国籍企業化の進展により、日本企業もグローバル市場の秩序維持といった要求を強めるようになります。
他の要因としては、アベノミクスから垣間見えるような、軍事化を梃子として日本経済の浮揚を図るという経済界の意向を挙げることができます。
例えば、1980年代から韓国、2000年代から中国の台頭による世界における日本の造船シェアの低下をうけて、近年日本の造船業は軍艦などの軍事生産への傾斜を強めています。
また、欧米の兵器産業の再編と国際共同開発の発展に取り残される危機感、財政赤字問題から今後「防衛費」の伸びが見込めないことなどから、経済界は武器輸出三原則の緩和を2000年代以降政府に強く求めるようになります。
これらの意向を受けて2015年1月9日に示された政府による新宇宙基本計画は、宇宙協力を通じた日米同盟の強化をうたっており、目標とする宇宙機器産業の事業規模は官民合わせて10年間で5兆円と言われています。
米国にとっても、日本の軍事産業の発展によって、米国では既に生産されていない兵器の生産を日本に任せるなど米国の軍事産業の補完的役割を期待できます。
現在私たちが直面しているのは、日米軍産複合体が経済的利益を追い求め、社会全体をコントロールしてしまうかもしれないという危機であると考えられます。(阿部太郎)
[参考文献]
佃和夫「日本造船工業会会長に就任して」(2013年6月18日)
http://www.sajn.or.jp/interview/interview_130618.htm
日本経済団体連合会「今後の防衛力整備のあり方について-防衛生産・技術基盤の強化に向けて―」(2004年7月20日)
https://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2004/063.html
日本経済団体連合会「わが国の防衛産業政策の確立に向けた提言」(2009年7月14日)
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2009/064.html
日本経済団体連合会「海洋立国への成長基盤の構築に向けた提言」(2010年4月20日)
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2010/033/honbun.html
日本経済団体連合会「防衛計画の大綱に向けた提言」(2013年5月14日)
https://www.keidanren.or.jp/policy/2013/047_honbun.html
渡辺他著『<大国>への執念 安倍政権と日本の危機』大月書店2014