100の論点:27. 安倍政権の教育政策をどのように評価しますか。

安倍政権の教育政策は、教育や内心に対する国家による管理・統制・介入を強化する政策(A)と、競争原理や成果主義といった経済的価値を優先する新自由主義的な政策(B)の2方向が絡みながら進行しています。第1次内閣の時には、2006年の教育基本法全面改定で、道徳主義的な教育の再編(第2条)、愛国心教育の明記(第2条5)、高等教育(大学)や家庭教育への法的介入(第7・10条)、行政による教育統制強化(第16・17条)等が定められました。07年には、教員免許状更新制採用(当初は「不適格教員」の排除を目的とされていた)、教員の階層化(「主幹教諭」の設置等)などの法改定が行なわれました。続く第2次内閣以降の諸政策のうち、ここでは、主にAに関わる政策を挙げてみます。

 

①道徳の教科化-従来、小中学校の道徳は、国語科や理科などの「教科」ではなく「教科外」としての位置づけでしたが、18年度を目途に、「特別の教科」(道徳科)となり、検定教科書の使用と記述式評価の導入が決まりました。教科書に示される徳目を教え込まれ、評価されることで子どもたちの内心の自由の侵害が懸念されます。「『愛国心』を堂々と育もう」(『産経ニュース』15年3月24日)という主張に象徴されるように、国家主義的な教科として利用されることも危惧されます。

②教書検定基準の改定-14年1月に教科書検定基準が改定され、「政府の統一的な見解」に基づいた記述が求められることとなり、それを受けた14年度検定の結果、中学校社会科の教科書では、国境画定問題(領土問題)や戦争責任問題に関して政府見解が記されました。政府見解を教えること自体は問題ありませんが、政府見解を正しいものとして教えるようになれば、教師は政府のスポークスマンになってしまいます。

③教科書採択制度の改変-14年4月の教科書無償措置法改定により、教科書の採択地区協議会の協議結果に基づく教科書採択が義務づけられることとなりました。教科書採択にあたってはそもそも学校現場の意志を尊重すべきではないかとの批判もあり、採択への政治介入や恣意的採択の恐れがあります。15年度の中学校社会科(歴史・公民)の採択結果、歴史修正主義的、国家主義的との批判のある育鵬社版の教科書採択率が前回比約1.5倍拡大しました(同社の公民教科書には、安倍首相の写真が15枚も掲載されています)。

④教育委員会制度の改変-教育委員会委員長と一本化された教育長を首長が直接任命し、首長と教委の協議の場として新設された総合教育会議で首長の意志が教育行政に反映しやすくなりました。本来政治から切り離されるべき教育に対する政治介入が懸念されます。

⑤大学教育への介入-14年6月の学校教育法改定で、大学自治の根幹であるはずの教授会権限が縮小され学長権限が強化さました。15年6月には文科省が国立大学の教員養成系・人文社会科学系学部の統廃合を通知しました。それぞれ、トップダウンの企業経営方式の導入、グローバル企業の競争に資する実学(理系)重視といったもので、先のBの要素が融合しています。一方、15年4月の国会答弁で安倍首相は国立大学での国旗掲揚・国歌斉唱を求める発言をしており、本来「学問の自由」によって守られていた大学に権力的介入が始まりました。

⑥「政治教育」の抑制-18歳選挙権に備え、15年7月に自民党が出した「提言」では、教員の「政治的中立」(違反には罰則)と高校生の「政治活動」への抑制が盛り込まれました。10月をめどに文科省が方針を定めるとのことですが、教育現場の委縮と高校生の市民としての意見表明が制約されることが懸念されます。(竹内久顕)

 

参考文献

佐藤学・勝野正章『安倍政権で教育はどう変わるか』(岩波ブックレット)2013年

藤田英典『安倍「教育改革」はなぜ問題か』(岩波書店)2014年