100の論点:38. 安保法の全体を簡潔に説明してください。

 安保法は、10件の法律改正(自衛隊法、PKO法、周辺事態法など)と1件の新法(国際平和支援法)から構成されます。これが成立し施行されたことによって、自衛隊はどういう活動ができることになったのでしょうか。
 第一に戦争に至らない程度の紛争、「グレーゾーン」での活動です。自衛隊がここに積極的に関わることになります。
  まず在外邦人保護のために、輸送以外に救出も行うこと、そして武器を使用することが可能になります。また他国軍と共同訓練をするさいに、他国軍の武器を防護対象として、自衛官は武器を使用します。太平洋における米・豪との共同訓練を念頭におくのでしょう。
 第二に周辺事態法を重要影響事態法にあらためるにともない、「重要影響事態」(放置すれば日本に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態など、日本の平和及び安全に重要な影響を与える事態)で活動します。周辺事態法にあった「我が国の周辺の地域における」という地理的限定を削除するので、「地球の裏側」での活動も法的には可能です。
 具体的には、後方支援活動や捜索救助活動、船舶検査活動などを行います。後方支援活動とは兵站、捜索救助活動とは戦闘参加者の捜索や救助を指します。
 第三に事態対処法によって、「存立危機事態」(日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合)に、武力行使が可能になります。これは集団的自衛権の問題です。政府は、米艦護衛やホルムズ海峡での機雷掃海を想定しています。
 第四にPKO法改正で拡大した活動です。自衛隊は人道的救援や選挙監視に加えて、治安維持活動をします。さらに他国の要員を救援するため「駆け付け警護」も行います。いずれの場合も、自衛官が紛争に巻き込まれる危険性は高くなります。
 また国連が統轄するPKOと別に、国連以外の国際機関の決議などに基づく「国際連携平和安全活動」のカテゴリーをつくり、そこに自衛隊を参加させます。アフガンにおけるISAFのような組織への参加も、排除されません。
 第五に、新設の国際平和支援法に基づき、国際社会の平和及び安全を脅かす事態に対処する他国軍に対する協力支援活動等を行います。これまでの個別法による対応を一般法・恒久法による対応にかえることで、随時派兵が可能になります。
 平時から戦時まで。日本周辺から地球の裏側まで。米艦護衛から多国籍軍への参加まで。安保法は、自衛隊を、どこでもいつでもなんでもシームレスに(つなぎめなく)できる「普通の国の軍隊」にかえるおそれがあるのです。
(永山茂樹)
 参考文献
 永山茂樹「「戦争法」が狙うもの」(法と民主主義・497号)2015年。