100の論点:44. 安保法案のもとで日本はイラク戦争のような戦争に自衛隊を派遣するのでしょうか。

 安保法案では、「戦闘地域」・「非戦闘地域」という従来の区別を廃止して、「現に戦闘を行っている現場」以外であれば、たとえ直前に戦闘を行っていた場所や直後に戦闘が行わる可能性が高い場所であっても、①(従来の「周辺事態法」と異なり地理的限定はなく地球規模で)「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態」(重要影響事態)であっても、または、②「国際社会の平和と安全」を目的に自衛隊が(イラク戦争の例のように国連安保理が武力行使を明示的に容認していないような場合でさえも)他国軍を支援する「国際平和支援法」に基づく「国際平和共同対処事態」での自衛隊海外派遣時においても、ともに、米軍などの他国軍への支援(弾薬の提供、発信直前の航空機の給油も含む)を可能としようとしています。

 こうした兵站支援は、いくら「武力行使でない」と言ったところで、相手側からすれば敵対行動そのものであり、むしろ、現代戦争の勝敗の鍵を握るこうした支援活動(武器・弾薬・兵員の輸送等)こそ、真っ先に攻撃対象となりえます。そして、相手から攻撃されれば、まさにそこが戦場となるわけで、これは被害者になると同時に、反撃を行えば、「相手を殺す」加害者になることを覚悟しなければならない活動です。こうして、日本がイラク戦争のような戦争において、米軍支援などを行い、その際に攻撃を受ければ、その反撃という形などを通じて、戦闘を行うという危険性が十分あり得ます。

 安倍首相は、安保法案閣議決定後の記者会見(2015年5月14日)で、「自衛隊がかつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことは今後とも決してない」と述べました。しかし、ここでのポイントは、そうした戦争への参加・協力を一切しないというのではなく、「戦闘に参加」をしないということに限定していることです。さらに敷衍すれば、そうした戦争に自衛隊が「戦闘を目的として」参加しないということにとどまりかねず、他国軍支援中に攻撃を受けた際の反撃などの形で結果的に戦闘・武力行使を行うことは排除されていないような法文の構成となっています。

  また、仮に、安倍首相がそうした戦争への参加を「しない」つもりなのだとしても、それは政策上しないということにとどまりかねず、もし法文上禁じられていないのならば、政権が交代した場合など事情が変われば参加可能ということになってしまいます。もし、参加自体ができないというのならば、少なくとも、そうした戦争への参加禁止を法案に明記することが必要でしょう。(河上暁弘)

 

参考文献

山内敏弘『「安全保障」法制と改憲を問う』法律文化社、2015年。