100の論点:47. シビリアン・コントロールは維持されるのでしょうか。

 安保関連法とは、言い換えれば“自衛隊海外派兵法“です。日本国憲法だけでなく、日米安保条約の内容をも大きく逸脱して強行採決された安保関連法は、要するにアメリカ政府と米軍の後押しを受けて、海外での武力行使へと突き進むことを認めさせるものです。そこでは、「専守防衛」と言う自衛隊本来の任務も放棄されることになります。自衛隊の海外派兵が恒常化すれば、抑止力が高まるのではなく、逆に危険を呼び込むことになります。そうまでして米軍と一体となって海外を目指そうとするのは、逆に日本を侵略のターゲットにする国家が不在であることを示しています。
 専守防衛に徹することで、日本国憲法第9条ともギリギリのところで折り合ってきた自衛隊の役割は大きな曲がり角に立つことになります。それは、文字通り、自衛隊が“他衛隊”となることを意味しています。
 その自衛隊を、誰が統制するのでしようか。結論を先に言えば、自衛隊が“他衛隊”となれば、自衛隊を統制するのは米軍であり、それに追従する自衛隊の統合幕僚監部(以下、統幕)となります。つまり、自衛隊は日本政府自体からも、有権者である国民や国民の負託を受けた国会からの統制から外れてゆくことになります。
 戦後警察予備隊の創設(1950)から、保安隊の創設(1952)を挟んで自衛隊が創設(1954)されてから、今日まで曲がりなりにも文民による自衛隊統制が担保されていたことになっていました。日本の文民統制は、文官である防衛官僚が自衛隊制服組を統制する意味で文官統制の制度を採用してきました。これでさえ変則的な制度ですが、ともかく表向きには自衛隊は文官によって統制されてきました。
 ところが、安保関連法成立以後では、自衛隊の文民による統制は極めて難しくなります。自衛隊の統幕と米軍は、明らかになった統幕の内部文書(「『日米防衛協力のための指針』(ガイドライン)及び平和安全法制関連法案」)によれば、「軍軍間の指揮所」と称される米軍と自衛隊の連合司令部を設置し、海外での軍事作戦を展開するとしています。今後、ますます文民統制は無きに等しいものとなります。すでに自衛隊は米軍の手の中にあると言っても過言ではないでしよう 。
問題は、そうした自衛隊の在り方を多くの文民政治家が支持していることです。例えば、2004年7月、事実上の文官統制を具体的に示す防衛参事官制度の見直しを迫った海幕長の主張を石破茂防衛庁長官(当時)が容認したり、本年では自衛隊制服組(武官)と防衛官僚(文官)の対等性を認める防衛省設置法第12条改正を制服組と政治家が連携して強行するなど事例があります 。
抑止力強化と言う幻想のなかで、自衛隊が自立していき、戦前のように政治に介入する可能性が高まってきます。私は、そうした文民政治家を“文民ミリタリスト”と呼んでいます。文民ミリタリストには、もはや自衛隊を統制する資格も能力もありません。(纐纈 厚)

参考文献
纐纈厚『文民統制 自衛隊はどこへ行くのか』(岩波書店、2005年)