100の論点:52. 特定秘密保護法について説明してください。

 特定秘密保護法とは、防衛、外交、スパイ防止、テロ活動防止の4分野で、安全保障に支障をきたす恐れのある情報を「特定秘密」に指定し、それに指定された秘密を情報公開しないことができるようにした法律です。秘密を漏らした公務員や市民に対して最長10年の懲役刑が科せられます。

 1985年に、特定秘密保護法によく似た国家秘密法案が国会に提出された際には、「知る権利を侵す」などとして自民党内からも批判が相次ぎ、廃案に追い込まれました。しかし2010年に尖閣諸島沖で起きた船舶衝突事故の際に、海上保安庁の職員が現場で撮影された映像をインターネットに流出させたことがきっかけとなり、国家秘密の漏えいを防ぐ必要性が強く叫ばれ、2013年に特定秘密保護法が成立しました。

 この法律の問題点は数多くあります。まず、特定秘密の範囲が広範かつあいまいなことです。そのため、政府が知られたくない情報を恣意的に「特定秘密」に指定することが可能となります。そうなると、本来であれば国民が知るべき情報を政府が隠ぺいしてしまう危険性があります。そしてこの特定秘密は、法律上は有効期間が5年とされ、延長しても30年までとされてはいますが、例外扱いすれば、実質的には永久に秘密にできてしまいます。

 さらに、そうした情報を収集・取材しようとすることも処罰の対象となる可能性があります。法22条では報道機関への配慮が記されてはいますが、取材方法次第では処罰が可能とされており、いわゆる西山記者事件(沖縄返還協定に際して日米間で結ばれた密約に関する情報を、毎日新聞の記者だった西山太吉氏が外務省の女性事務次官と親密な関係を結んだ上で、その事務官から入手した事件)のような取材方法であれば、法22条2項がいう「不当な方法」による取材とされ、処罰される可能性が高いです。

 この法律が、安保法制とセットで用いられた場合、さらなる危険性があります。政府が「存立危機事態」を認定して集団的自衛権行使をしたとします。その際、防衛に関する情報が特定秘密にできますから、どのような情報をもとに「存立危機事態」と認定したのかを秘密にすることもできます。そうなれば、国民は、その自衛権行使が正当だったのかを検証するための情報を入手できないことになります。かつて旧日本軍が柳条湖事件で事件をでっち上げて戦争を引き起こした過去を思い起こせば、集団的自衛権行使の根拠を国民が検証できなくなる可能性をはらむこの法律がいかに危険かが分かると思います。

 以上のように、特定秘密保護法は、様々な問題点を抱えており、それが安保法制とセットで用いられることで、民主主義や平和主義を危機にさらすことになると思われます。(大野友也)

 

参考文献

別冊法学セミナー『特定秘密保護法とその先にあるもの』(日本評論社、2014年)

海渡雄一ほか編『秘密保護法 何が問題か―検証と批判』(岩波書店、2014年)

明日の自由を守る若手弁護士の会『これでわかった! 超訳 特定秘密保護法』(岩波書店、2014年)