100の論点:81. 東北アジア非核兵器地帯はどのようにして可能でしょうか。

 非核兵器地帯は、核兵器のない地域を実現するために、条約で2つの約束をします。まず、1つ目の約束は、地域の国々が核兵器の生産・取得・配備などをしないことです。2つ目の約束は、核兵器国が地域の国々に核兵器を使用しないこと、または核兵器を使用するという威嚇を行わないことです。これは「消極的安全保障」と呼ばれています。

 これら2つの約束を踏まえたうえで、現在、東北アジア非核兵器地帯の構想の1つとして提案されているのが、梅林宏道氏による「スリー・プラス・スリー」構想です。この構想では、日本・韓国・北朝鮮の3カ国が「地帯内国家」として、中国・米国・ロシアの3カ国が「近隣核兵器国」として扱われています。そのうえで、地帯内国家は核爆発装置の生産・取得・配備などをしないこと、近隣核兵器国は地帯内国家に対して核兵器を使用しないこと、または核兵器使用の威嚇をしないことを約束するという構想です。

 日本政府は、非核兵器地帯の構想が実現するためには、地域に関与するすべての非核兵器国と核兵器国が非核兵器地帯の設置に同意すること、非核兵器地帯が地域や世界の平和と安全保障に貢献すること、信頼できる査察・検証の制度が整っていることなどが必要であると考えています。そして、日本政府は、東北アジア地域には安全保障をめぐる緊張や不安が存在していること、核兵器などの軍事力に強く依存している国が存在していることなどの理由により、同地域において非核兵器地帯を設置することは現時点では難しいと考えています。日本政府は、東北アジア非核兵器地帯を実現するためには、まずは安全保障をめぐる問題を解決することが重要であるとのスタンスに立っています。安全保障の問題を考慮せずに、非核兵器地帯を設置した場合、逆説的に、安全保障の問題がさらに複雑になると考えられているからです。

 他方で、軍縮・不拡散措置には、関係国に信頼を生む結果、安全保障をめぐる問題の解決を促すという重要な役割があります。それゆえ、たとえ現時点では実現が難しいとしても、東北アジア非核兵器地帯を構想・提案することはとても大切です。とりわけ日本が東北アジア非核兵器地帯を構想・提案することは、信頼関係を築きあげたいというメッセージだけでなく、核武装をしないというメッセージを関係国に送ることができます。

 このように、東北アジア非核兵器地帯を設置するためには、軍縮・不拡散の問題と安全保障の問題の双方を同時に考慮することが求められている、といえるのではないでしょうか。(佐藤史郎)

 

参考文献

梅林宏道『非核兵器地帯―核なき世界への道筋』岩波書店、2011年。

外務省軍縮不拡散・科学部編『日本の軍縮・不拡散外交(第六版)』平成25年3月。http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/gun_hakusho/2013/pdfs/zenbun.pdf(2015年8月31日)。

黒澤満編『軍縮問題入門〔第4版〕』東信堂、2012年。

水本和実「日本の非核・核軍縮政策」、広島平和研究所編『21世紀の核軍縮―広島からの発信』法律文化社、2002年、367-388頁。