100の論点:83. 東アジアにおける市民外交にどのような可能性があるでしょうか。

市民外交とは、伝統的な政府対政府の外交とは異なり、一般市民やNGO・NPOなどの市民社会組織が展開する外交戦略を意味します。日本のNGOである市民外交センターが早くから提唱してきたように、外交は政府のものだけではありません。グローバル時代の市民は、情報通信技術や運輸交通技術を活用して、他国の市民との対話、交流、協力に積極的に従事し、時には諸外国の政策に変容を迫るほどの影響力を発揮することもあります。ポスト冷戦期の新たな世界秩序を考える上では、グローバルな政治に影響を与える強力な市民の存在を、私たちは認識する必要があるでしょう。

 東アジアにおいても、国境を越えた強力な市民社会ネットワークが発達を遂げつつあります。難民保護、貧困削減、農村開発、環境保護、人権擁護、移民労働、紛争予防など、多様な分野で市民社会同士の連帯が進み、国家政府や国際機関への政策提言活動も盛んに行われています。東アジアでは、国家主導による市場優先の共同体づくりが進んでいます。成長を遂げる市民社会ネットワークは、国家主導でも市場優先でもない東アジア共同体作りを促進する役割を果たすでしょう。

 安全保障(紛争予防)の分野での国境を越えた市民の連帯の一例として、国際連合と連携した「武力紛争予防のためのグローバルパートナーシップ」(Global Partnership for the Prevention of Armed Conflict=GPPAC)を挙げることができます。GPPACとは、紛争の予防を目的としたグローバルな市民社会プロジェクトで、世界15の地域プロセスに分かれて活動が行われています。東北アジアでも、日本、韓国、中国、台湾、ロシア、モンゴルのNGOによって2004年2月にGPPAC東北アジアが発足しました。

GPPAC東北アジアの紛争予防に関わる主たる活動としては、東北アジア非核地帯の実現に向けた政策提言、日本国憲法第9条の平和理念のグローバルな拡大を目指すグローバル9条キャンペーン、平和文化の醸成に向けたトランスナショナルな平和教育などがあります。

このようにGPPAC東北アジアの運動の方向性は、日米同盟に強化に見られるような排他的かつ抑止型の安全保障政策とは大きく異なります。非排他的かつ予防型の協調的安全保障や民衆の目線に立った人間安全保障の実現を目指していると言えるでしょう。市民社会が示すオルタナティブな安全保障秩序の1つと言えます(五十嵐誠一)。

 

参考文献

Seiichi Igarashi, ‘‘The Developing Civil Public Sphere and Civil Society in East Asia: Focusing on the Environment, Human Rights, and Migrant Labor,’’ in Emiko Ochiai and Hosoya Leo Aoi, eds., Transformation of the Intimate and the Public in Asian Modernity, Brill: 2014, pp. 264-300.

上村英明、木村真希子、塩原良和編『市民の外交-先住民族と歩んだ30年-』法政大学出版局、2013年。

五十嵐誠一「東北アジアの新しい安全保障秩序とトランスナショナルな市民社会-批判的国際関係論の視座から-」『北東アジア地域研究』第17号、2011年10月、1〜19頁。