100の論点:84. 軍事力に依存しない安全保障の例として、コスタリカの経験について教えてください。

コスタリカ憲法12条(1949年)では、例外的に自国防衛のため再軍備が可能になっていますが、常備軍を保有しないことが原則であり、現実的にも戦車・戦闘機・軍艦といった通常の軍事力は保有していません。軍隊に代替するものとしては、哨戒艇、監視航空機、小火器類を保有する国境警備隊や航空監視員等の警察力が配置されています。非武装憲法制定の背景には、内戦や軍によるクーデタの防止、ミリタリズムによらない民主政治の実現、軍事費を経済発展や福祉に使用すること等が動機にありました。コスタリカの国家も多くの国民も、軍隊をもたないことが最大の防衛力と考えているようです。

非武装国の対外的安全保障としては、米州機構や米州相互援助条約に加盟していますが、軍事的協力は行わないことが了解されています。また、憲法では集団的自衛権は否定されていませんが、特に1983年の非武装永世中立宣言以降は、事実上集団的自衛権行使はできないことになっています。それは、コスタリカ政府がイラク戦争支持を表明したことに対し市民が起こした訴訟の最高裁憲法法廷(2004年)が下した違憲判決において、非武装永世中立や平和的生存権保障が、憲法的価値としての平和の理念になっていることが指摘されていることにも現れています。

上記の永世中立宣言は、当時の隣国ニカラグア内戦のコスタリカ領土への波及等を念頭に、軍事力によらない侵略への対処政策として出されたものですが、それにとどまらず、「積極的中立政策」による国際貢献も方針としています。コスタリカは米州人権裁判所や国連平和大学の所在地となっていますが、それは国際的な紛争を仲介や交渉を通じて非軍事的に、平和的に解決しようという精神に基づくものです。このような精神は、非武装永世中立に従った平和外交を推進して中米和平に貢献し、1987年にノーベル平和賞を受賞したアリアス大統領の行動に生かされています。

なお、コスタリカの非武装平和憲法とその経験は世界的にも注目されていますが、パナマはそれをモデルとして1994年にコスタリカと類似の憲法を制定しています。(澤野義一)

 

参考文献

竹村卓『非武装平和憲法と国際政治―コスタリカの場合』(三省堂、2001年)

澤野義一『永世中立と非武装平和憲法』(大阪経済法科大学出版部、2002年)

澤野義一『平和憲法と永世中立』(法律文化社、2012年)