100の論点:87. 非武装の文民による平和維持、住民保護とはどのようなものでしょうか。

 近年の国連平和活動は伝統的なPKOから変容していて、武器使用の範囲を拡大していく側面があります。今回の安保法案には、国連PKOに従事する自衛隊員の武器使用権限を拡大する法改正が含まれています。紛争の克服、住民保護のためには、武器使用の拡大しか方法がないのでしょうか。

 これに関して、非武装の文民が紛争地に入っていって、紛争の暴力化を防ぎ、住民を保護しようとする活動があることが注目されます。このような活動は、非暴力的介入あるいは非武装の文民による平和維持と呼ばれています。

 この活動の起源は、ガンディー(1869-1948)にあります。ヒンドゥー教徒とイスラム教徒の対立に悩まされたインドにおいて、ガンディーは、対立・紛争に非武装、非暴力で介入して紛争の収拾をめざすシャンティ・セーナ(Shanti Sena、平和隊)の構想を1920年代から持っていました。この構想はガンディーの生前には実現を見ず、彼の死後実現されました。1950年〜60年代にインド各地で活発な活動を展開したシャンティ・セーナは、1970年代には衰退しましたが、この方法は西洋の平和活動家に継承され、1980年代以降、世界各地の紛争に非暴力的に介入する国際NGOが相次いで設立されました。

 非武装の文民による平和維持・住民保護に従事する国際NGOとして、国際平和旅団(Peace Brigades International、1981年設立)、平和のための証人(Witness for Peace、1983年設立)、クリスチャン・ピースメーカー・チームズ(Christian Peacemaker Teams、1988年設立)、非暴力平和隊(Nonviolent Peaceforce、2002年設立)の4つが主要なものといえるでしょう。それぞれのNGOごとに、設立・支持の母体、活動方針、活動地域等の違いがありますが、いずれのNGOも、紛争地において、非軍事・非暴力による住民保護・平和創造の活動を支援していることは共通しています。これらのNGOは、紛争地のフィールドに、多国籍のフィールドチームメンバーを派遣して、このメンバーが地域の人々に寄り添うことによって、その地域の暴力を抑止しようとしています。これらのNGOの活動地域は、グアテマラ、ニカラグア、コロンビア、パレスチナ、イラク・クルド人自治区、南スーダン等々です。

 これらのNGO活動については、とりわけ3つの点に留意する必要があると思います。

 1)あらゆる紛争地においてこの方法が有効であるとは限らないこと。紛争がエスカレートして暴力化がひどい状況になった場合、非武装の文民による活動の可能性は少なくなります。非武装の文民が活動しうるのは、紛争の暴力化がまだそれほどではない段階、あるいは暴力の終息後の段階ということになります。

 2)NGOによる非暴力的介入は、武力介入よりも問題が少ないとしても、先進国=北の資金によって北の人間が途上国=南の紛争地に入っていくという構図になりがちですから、北が南をコントロールするものとならないよう最大限の注意が要ります。

 3)NGOによる非暴力的介入は、紛争に対する対症療法であり、紛争を克服するためのより根源的、構造的なアプローチ──武装解除、和解、政治参加、法制度構築等々──が同時に必要であるといえます。

 最後に、非武装の文民による平和維持に関して、最新の動向を2つ紹介しておきます。

 1)「国連平和活動に関するハイレベル独立委員会報告書」(2015年6月16日)には、「非武装の文民保護に従事しているNGOのこれまでの貢献に鑑みて、国連平和活動はこれからもっとこれらNGOとの連携をはかるべきである」という勧告が含まれています。この報告書は総じて、国連平和活動において軍事力以外のパワーを重視する傾向を打ち出しています。

 2)国連訓練調査研究所(United Nations Institute for Training and Research, UNITAR)がNGO非暴力平和隊の協力を得て「非武装の文民保護(Unarmed Civilian Protection, UCP)の理念と方法」に関するオンライン教育を開始したことが注目されます。

 現在、国連平和活動が軍事化している側面が強調される傾向にありますが、わたしたちは、住民保護、平和維持、平和構築等において、軍事力によらない方法を発展させようとする国際的な努力が顕著に見られることに留意したいと思います。

(君島東彦)

 

参考文献

君島東彦「非暴力の人道的介入、非武装のPKO」君島東彦編『平和学を学ぶ人のために』(世界思想社、2009年)207-227頁

「国連平和活動に関するハイレベル独立委員会報告書」(2015年6月16日)

 http://www.unic.or.jp/news_press/info/14816/

「非武装の文民保護の理念と方法に関するオンライン・コース」

 http://www.unitar.org/event/strenghtening-civilian-capacities-protect-civilians-ptp201522e