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責任者:玉井良尚
Email: hgstama(a)yahoo.co.jp
本分科会は、公共性の観点から平和を検討することを目的とする。公共性の議論も、大きく分けて次の三点から近年試みられるようになった。地球公共財、公共政策、公共哲学である。「公共性と平和」分科会は、この三つの観点を包摂しつつ、政治、法、経済などの世界平和に関わる社会現象を検討する。
第一に、平和が地球公共財であるとの認識は、国連開発計画(UNDP)が1999年に出版した「グローバル・パブリック・グッズ」の議論に端を発する。「地球公共財とは、すべての国家、すべての人々、すべての世代に便益をもたらす方向が明確なもの」であり、グローバルな観点から非排除性と非競合性を有することをその特質とする。これまでの国家単位の公共財のあり方とは性質を異にする。これは国際政治を権力闘争の場として考える観点から、地球全体をひとつの公共秩序と考える視点への研究視覚の構造転換とも言える。地球をひとつの共同体として捉え、そこでの公共利益を考察することが地球公共財の議論の主題となる。
第二に、平和学という観点から、地球公共政策の形成や制度化の始まりをとらえることが必要となってきている。平和学は規範的な性格をもちつつ、実証や経験によって学問的な成果を構築してきた。広義の平和の範疇に含まれる貧困削減、人権尊重、環境問題の解決、といった課題に対して、国際機構、国際レジーム、国家、地球市民社会アクターなどの連携による問題解決の枠組みづくりが近年ますます盛んになっている。地球的な課題を公共性という観点からとらえなおす地球公共政策が、課題別に制度化されはじめてきている。従来の、単なる国家間での国際公共政策が、クラブ財の供給を主としてきたという限界をふまえて、地球全体の公共利益の実現を目標とする地球公共政策を研究することは21世紀の平和学がなさなければならない一つの重要な課題である。なかでも規範実現のための政策形成過程、政策分析、政策の執行の研究が今後重要になってくることが予想される。
第三に、公共哲学という観点からは、平和はもっとも重要な公共善の1つとして考えられる。日本における公共哲学の運動は、学問の実践性の回復を意識的に目指しており、9・11以後は特に平和問題を最重要課題の1つとして取り上げている。そこで、福祉・環境をはじめとする諸領域における展開と並んで、「平和公共哲学」の本格的展開を企てる。ここにおいては、「地球的公共哲学」ないし「グローカル公共哲学」というように、国境を越えた公共性の実現が追求され、地球的・国民的・ローカルなアイデンティティーというような、多層的アイデンティティーが規範的に提示される。また、「平和」そのものの哲学的考察などの思想的深化を企てる。例えば、戦争の不在という外面的な平和と同時に、精神的な内面的平和にも注目する。さらに、平和を構築する方法論も新たに探究し、平和運動の再生を目標として掲げる。NPO・NGOなど公共的市民によるアクションを重視すると共に、緩やかなネットワークという形態やスピリチュアリティーへの注目など、新しい試みや観点を提起する。
権力政治を超克して地球規模での公共性を希求することは、一見、高度に理想主義的に見受けられる。しかしこのような観点から公共性を論じることは、人類の存亡にも関わる危機的な状況に地球全体が直面している、という現実認識を背景としている。この点で公共性の議論は、現実主義を超える現実主義的側面を持つ研究分野であることにも論及しておきたい。
なお、本分科会の母体は、地球平和公共ネットワークとグローバル公共政策研究会であるが、これらの研究会の研究成果を平和学会で報告するとともに、これらの研究会のメンバーの皆さんに平和学会の活動を紹介することも本分科会の主旨のひとつである。本来、平和学会は研究者のみならず市民に開かれた学会であるが、「公共性」にとって市民の参加は重要なポイントである。この分科会を入口として多くの市民の方が学会にアクセスしてくれることも望みたい。