2023年 春季研究大会プログラム

 

大会テーマ「ちゃんとした日本人」の意味を問う〜平和を実現する市民を育むということ

 

2023年 6月17日(土)・18日(日)

会場:奈良大学

 

(フルペーパーは大会終了後、1〜2週間ほど掲載されます)

 開催趣旨

 

 第二次世界大戦による被害は、戦闘となった地域やそこで戦った人々、空爆によって被害を受けた市民だけではない。その戦争の影響は、空間や時間を超えて、今日も続いている。被害を受けた人々の身体や心において、生きている限り戦争は終わらないだろう。また、戦争によって深く傷つけられ汚染された土や水、木々は今もなお、動植物や人間の身体に影響を与え続けている。このような戦争被害の多様な傷に向き合うことが平和の醸成に不可欠なはずである。

 しかし、シンシア・エンローなどのフェミニストが指摘するように、戦争は家庭教育の中でも再生産されるために、戦争は簡単に終わるわけではない。それは戦争の記憶の伝承という意味だけではなく、むしろ戦争を支えてきた規範や思想、家庭内外での日常的な営みといったものが変わらない限り、戦争は終わらない、ということである。また、ベティ・リアドンが繰り返し強調するように、女性の権利が守られ、男性と平等にならなければ戦争が終わったとは言えない。それは、女性に対するあらゆる暴力の根底にある家父長制を無くすこと、ということである。なぜなら、家父長制が美化し、推進し、不可欠とするものはパワーであり、その中でもpower-over(支配力や武装力)であり、その延長線上には戦争があるからである。

 家父長制は実に巧みなものである。時代によって、場所によって、文化によって、そのあり方が異なる。そして、男性だけではなく女性もその存続に主体的にかかわる。また、すべての男性が特権を得られるわけではない。近代の家父長制は性差別主義であると同時に異性愛主義でもあり、それに従わない性やジェンダーをはじめ、「伝統的な家族」以外の生き方を選択する人々と家族を「我々」から排除してきた。家父長制に基づく社会的制度や仕組みは時代の変化と共に変わりながら再生産され、形を変えながら継続する。その存続も戦争同様、家族や教育といった制度だけではなく、家庭内外の日常的な営みを通じて温存され、必ずしも目に見えるものではないにしても、代々続くものである。

 そこで、本研究大会は、とりわけアジアを意識しつつ、目を足元に向けることで、映画「教育と愛国」でも指摘される「ちゃんとした日本人」という概念とその背景にあるものを問うことにした。「家庭」と「教育」に着目することを通して、国家がどこまで市民のセクシュアリティや学びに介入すべきかを考える。戦争による数々の傷について学び考える場であるはずの家庭や学校はむしろそれらから目を逸らし、「ちゃんとした『国民』」と呼ばれる「我々」をつくろうとする場となっている。同時に「我々」に該当しないと見なされる人を排除し、二項対立的なヒエラルキーを築く。それは戦争被害の傷を人々の心の底に膿んだまま残り続けさせる結果となっている。家父長制の現在の形は、家族や家庭、学校や教育における多様性を排除することを前提に立っていると言っても言い過ぎではないだろう。「ちゃんとした日本人」という「我々」をつくり出そうとする構造を明らかにした上で、本研究大会では家庭・家族・学校・教育から始まる平和づくりの土台を平和学の視点から創造したい。  

第25期企画委員長 アレキサンダー・ロニー 

 

 6月17日(土)

 

 9:00-11:00 部会1:※ラウンドテーブル「家族を問い直すー憲法24条と9条が「交差」する視点から」

(部会責任者 斎藤小百合 恵泉女学園大学)

 

 日本国憲法がある社会に生きるわたしたちは、戦争に進んでいく国家が「正統」と定める「家族」によって日常から戦争の準備が進められようとするとき、その国家にとって都合の良い「正しい家族」となって、戦争に加担するということを望まない。戦争への道筋が踏み固められて行こうとするとき、むしろそれに抗うことができる備えとなるような家族こそが、憲法9条が盛り込まれた憲法に24条がある意味ではないだろうか。つまり、平和を作り出していくことができる家族である。平和を踏みにじる権威主義的な国家は権威主義的な家族によって支えられるだろう。構造的暴力のない、「個人の尊厳」と(性別二元論に捕らわれない)両性の「本質的平等」を実現する家族を思い描こうという企画である。

 

登壇者:清末愛砂(室蘭工業大学)

登壇者:池田賢太(すばる法律事務所)

登壇者:依田花蓮(行政書士)※非会員

登壇者:Ellin McCready (青山学院大学)※非会員

司会: 斎藤小百合(恵泉女学園大学) 

 

 9:00-11:00 部会2:気候変動と21世紀の平和プロジェクト委員会/平和と芸術分科会共催

※ラウンドテーブル「ノン・ヒューマンへの「感受性」を紡ぎ出すことは可能か――大地との戦争を超えて」

(部会責任者 前田幸男 創価大学)

 

 気候危機や新型コロナウィルス感染症などの「ノン・ヒューマン」からの「脅威」は、収まる兆しもない。しかも、厄介なのはこのヒトが受ける被害が、住む場所や環境によって異なり、同じ「被害」として理解されにくい点である。むしろ、そうした被害はしばしば特定の国家の被害として語られ直され、独り歩きすることさえある。

 ウクライナ危機が転機となって血なまぐさい戦争観が再び頭をもたげる一方で、ジオ・ヒストリー(地球史)から見て他の生命を使い倒そうとするヒトから「大地との戦争」を仕掛けられている地球には、追加的に戦争を受け止める余力もないのではないか。ちょうど核の暴力の普遍史から生み出された被ばくを糸口に「震撼させられた者たちの連帯」を構想できるように、ヒトが築きあげた近代文明による暴力によって傷つくヒトとノン・ヒューマン双方にヒトが気づき、「震撼させられた者たちの連帯」を構想することは可能ではないだろうか。

 視覚が優位しスマホに従属する現代社会にあって、上記のような複合危機を自覚し、足元の日常から変化のための行動を起こす主体はいかにして立ち上がるのか。また何が希求されているのか―。本部会ではこうした言語化が難しい「感受性」をテーマとし、平和を紡ぎ出す主体が立ち上がっていくようなヴィジョンを構想する契機としたい。

 

登壇者:小谷 一明(新潟県立大学) 「「場所」の詩学――環境文学から感受性の涵養を考える」(仮)

登壇者:森 瑞枝(立教大学)「ノンヒューマン/死者の「現前化」は感受性涵養の引き金になるか――能楽師の視点から」(仮)※入会予定

登壇者:福田 豊子(龍谷大学短期大学部)「「センス・オブ・ワンダー」涵養の実践現場としての保育――大地との平和を紡ぎ出すことの可能性」(仮)※入会予定

討論:湯浅 正恵(広島市立大学)

討論:佐藤 壮広 (山梨学院大学)

司会:前田 幸男 (創価大学

 

11:00-12:00  ドキュメンタリー上映『我が友 原子力―放射能の世紀』(渡辺謙一)[オンライン不可]

 原子力利用を受容させる「平和のための原子力」キャンペーンの一環として、1958年元旦に日本テレビが放送したのがWalt Disney制作の「Our Friend The Atom」だった。それと同じタイトルを付したこの映画は、広島・長崎の惨禍を経験した日本に原子力導入の道を開く鍵となった核二元論を歴史的に問い、意図的に分けられた核と原子力両者が一体であることを照らし出す映画である。

広島・長崎の被爆者をはじめ、核実験の風下住民たち、東日本大震災後の“Operation TOMODACHI”による被曝症状を訴えるロナルド・レーガン元乗組員、被ばく労働者の言葉を紡ぎ、被ばくをめぐる事実関係とその社会的政治的背景を描き、それらを隠蔽するメカニズムの由来を探る。開催校企画部会と合わせて鑑賞いただきたい。

 

12:20-14:00  ドキュメンタリー上映 『教育と愛国』(斉加尚代)[オンライン不可]

 本作品は、毎日放送(MBS)が2017年7月に『映像’17』で放送し、この年の第55回ギャラクシー賞でテレビ部門大賞を受賞したものに追加取材と再編集を重ねて2022年に公開した映画である。2014年に教科書検定制度が見直され、政治介入が徐々に強まってゆく中での出版社や執筆者の状況、慰安婦問題を教える教員や大学教授へのバッシングなど、教育現場から教育と政治について問うている。午後の部会3では、ドキュメンタリーで登場した平井美津子氏に報告者として登壇していただき、監督の斉加尚代氏には討論をお願いしている。

  ※  オンラインで部会3に参加予定の方は、事前にアマゾンプライム「教育と愛国」(テレビ版)をご視聴ください。

 

 

12:00-14:00 分科会

 

14:05-15:20 総会

 

 

 

 15:30-17:30  部会3:「『教育と愛国』が問うものーその問題構造の注視と再生への模索」

(部会責任者 阿知良洋平 室蘭工業大学)

 

 歴史教育がどうあるかは、社会の未来が決まる1つの焦点である。映画「教育と愛国」は、これまで教育界をこえて十分に共有されにくかった歴史教科書問題を、広く市民社会の議題として遡上に載せた。1997年の「新しい歴史教科書をつくる会」の発足をはじめ、特に90年代以降の日本社会では、他者の声に耳を塞ぎ隘路に入っていくような自己肯定が広がってきた。それへの確かな批判のためにも、今一度、なぜそのような問題が生じてきたのか、そしてどうしたらその構造のなかで、加害の歴史にも耳を傾けながら平和の未来をつくる確信を持てるような、ひらかれた自己肯定を育てていくことができるのか、考えたい。今回は平井美津子さん(映画出演)の現場からの報告を基軸にして、知恵をつなぎあってゆく

 

報告:平井美津子(大阪公立中学校教諭)「教育と愛国――歴史教育の現場から」

報告:一盛真(大東文化大学)「「国民」を創る教育―深まる政治介入の中、希望を語る」

報告:木戸衛一(大阪大学)「ドイツに見る人間の尊厳と政治教育」

討論:斉加尚代(毎日放送、「教育と愛国」監督)※非会員

討論:安原陽平(獨協大学)

司会:阿知良洋平(室蘭工業大学)

  

 6月18日(日)

 

 9:00-11:00 部会4(憲法プロジェクト委員会・憲法と平和分科会共催)

「東アジアの平和をどのように準備するか-「平和構想提言」をどのように活かすかー」

(部会責任者 君島東彦 立命館大学)

 

 岸田政権は2022年12月16日の閣議決定で安保3文書(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)を改定した。これらの文書は、ロシア、中国等をこれまでの国際秩序を力によって一方的に現状変更しようとする勢力、欧米起源の普遍的価値を共有しない国家として警戒して、日本の安全を維持するために、日米同盟の強化は当然のこととして、日本自身の防衛力の抜本的強化――それにはこれまで認めてこなかった「反撃能力」(敵地攻撃力)をも憲法9条のもとで許容される自衛力に含めるという大きな憲法解釈変更、政策変更が含まれているーーを行うと宣言している。

 これに対して、平和運動家、平和研究者は「平和構想提言会議」を組織して、政府の軍拡・戦争準備路線に対抗するオルタナティブとして平和構想提言「戦争ではなく平和の準備をー“抑止力”で戦争は防げないー」を発表した(12月15日)。この部会では、平和構想提言を取りまとめた共同座長のふたりの報告、それに対するコメント、討論等によって、安保3文書に対するオルタナティブを豊かなものとしたいと考える。

 

報告:川崎哲(ピースボート)「『抑止力神話』からの脱却」

報告:青井未帆(学習院大学)「平和について憲法論にできること――安保3文書改定を経て」

討論:笹本潤(弁護士、東京大学大学院)

討論:麻生多聞(鳴門教育大学)

司会:遠藤誠治(成蹊大学)

 

 9:00-11:00 部会5(自由論題)

 

報告:松本いく子(上智大学大学院)「国際協力の担い手としての宗教組織――ミクロネシアの非核独立運動とキリスト教会の協働の事例から」

報告:志村真弓「対リビア武力行使の長期化と国際法的根拠の変移「住民保護」から「テロ掃討」へ」

報告:浜恵介(法政大学大原社会問題研究所)「日本における非核条例の現状と展望」

討論:松井ケティ(清泉女学院大学)

討論:清水奈名子(宇都宮大学)

討論:池尾靖志(立命館大学)

司会:堀芳枝(早稲田大学)

 

11:00-12:50  ドキュメンタリー上映 『教育と愛国』(斉加尚代)[オンライン不可]

 

 

11:00-12:00 昼休み

 

12:00-14:00 分科会

  

 

13:00-14:00  ドキュメンタリー上映『我が友 原子力―放射能の世紀』(渡辺謙一) [オンライン不可]

 

 

14:30-16:30  部会6(開催校企画) 「核のフォールアウトと日米関係」

(部会責任者 高橋博子 奈良大学)
 放射性降下物(Radioactive Fallout)とは、核兵器が炸裂後に発生する、放射性物質が広がって降下する地球環境汚染のことである。マンハッタン計画では放射性物質の軍事利用が検討され、戦後も米軍特殊兵器計画などで検討され続けている。放射性降下物についても軍事兵器への応用という観点から、放射性降下物の人体影響研究は重視されてきた。
 その一方で、広島・長崎への原爆攻撃による残留放射能・放射性降下物・内部被曝を認めることは国際法違反であることを認めるに等しいため、米国政府・軍は公式には否定し続けてきた。核のフォールアウトによって多くの人が被ばくしたにも関わらず隠されてきた。
 本部会では、核のフォールアウトによってどのような被害がもたらされたのか、広島・長崎、ビキニ水爆実験、米国内での核実験についての報告と、日米関係の視点からの分析を踏まえた議論をしたい。

 

報告:小山美砂 (ジャーナリスト)「広島・長崎原爆のフォールアウト」※入会予定
報告:濱田郁夫(太平洋核被災支援センター共同代表)「太平洋核実験による高知のマグロ船の被爆とその影響について」
報告:宮本ゆき(デュポール大学)「米核開発のフォールアウト」
討論:森川正則(奈良大学)※入会予定
討論:下本節子(ビキニ被ばく訴訟原告団長)※非会員 

司会:田井中雅人(明治学院大学)