大会テーマ「安全保障・植民地主義・ジェンダー」
2024年 10月26日(土)・27日(日)
会場:オンライン開催
(フルペーパーは大会終了後、1~2週間ほど掲載されます)
<開催趣旨>
2022年2月、ロシアがウクライナへの侵攻を、2023年10月にはパレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスからの攻撃を受けたイスラエルが同地区への激しい空爆を開始した。現在進行中の武力紛争はこれだけではないが、これら大規模な二つの紛争が展開されている中で、男性性/女性性の規範およびジェンダーの階層が武力紛争をどのように構築しているかについて、今ほど分析が必要とされている時はないだろう。武力紛争の要因としての政治経済システムの崩壊や貧困、民族対立の分析だけでなく、これらの問題解決の手段として軍事力を高く価値づける軍事主義がいかに男性性/女性性を動員・活用しているかを分析することなしに、武力紛争をなくすことはできない。
これまで世界のフェミニストたちは、男性性を上位に置き女性性を下位に位置づけるという不均衡なジェンダー二元論の上に成り立つ家父長制のもとで、「男らしさ」の証明として正当化されてきた暴力が個人を超えて国家の行動規範となってきたこと、それゆえ家父長制こそが軍事主義、そして武力紛争をもたらしていることを訴えてきた。さらに植民地主義とも結びつき、国家が所有する軍隊によって安全保障を実現しようとする伝統的な「国家安全保障」の名の下で展開される、女性に対する性暴力をはじめとする様々な暴力について、各国のフェミニストたちは「誰のための安全保障なのか」を問うてきた。
しかし私たちが安全を語るとき、「女性」とひとくくりにすることで見過ごされる女性間の差異について敏感な視点を持たなければならない。これは第26期の日本平和学会が重視する視点、すなわちインターセクショナリティである。不安全な状況は、ジェンダーだけでなく、セクシュアリティ、人種、階級、植民地主義、さらにはグローバルな政治経済構造などの要因が交差し絡み合って引き起こされているからである。
とりわけ植民地主義との関連においていえば、近年国際社会が取り組むべき問題として光が当てられてきた紛争下における女性への性暴力をめぐっては、アフリカ大陸での問題ばかりが注目され、それゆえに第三世界の「野蛮さ」を象徴するものとして表象されてきた。すなわち、「文化的に遅れた途上国の男性から抑圧を受ける途上国の女性」という新植民地主義的なジェンダーが今日の国際安全保障において再生産されているのである。
このように人々の日々の安全・安心が他者によって定義され、そして脅かされている現状をどう打開すればよいか。その一つの重要なアプローチとして、2024年度秋季研究集会では主として「ジェンダー」に注目する。国際秩序の維持を主な研究の主題としてきた国際関係論および国際政治学は、いわば「男性の牙城」であり続けてきた。主な行為主体として想定されてきた国家の中心を男性の政策決定者が占め、そうした世界を分析する研究者たちの多くもまた男性だったためである。したがって、女性をはじめとする周辺化されてきた経験からいま改めて「平和」を考える必要に迫られているといえよう。
フェミニスト平和教育者のベティ・A・リアドンは、平和研究において女性に関わる問題が、中心的課題に対して二次的な、あるいは付随する問題として扱われてきたと指摘する。本学会もその反省の上に立ち、秋季研究集会では主にジェンダーの視点から様々な暴力の問題にアプローチし、暴力に抗する知を生み出すことを目的とする。そのことを通じて、女性だけでなく、世界の様々な地域で安全を脅かされている人々との架橋を目指す。
第26期企画委員長 土野瑞穂
10月26日(土)
9:00-11:30 部会1(企画委員会企画)
「東南アジアにおける人々の『非安全』とジェンダー」
近年、東南アジアでは強権的な統治スタイルを持つ政治が行われつつあり、人々の安全を脅かしている。本部会では、ミャンマーのクーデター以降も続く紛争と隣国タイへの避難民と、カンボジアの若年女性に対するジェンダーに根差した暴力の報告から、紛争時と平時、その中間時において、権力関係が非対称な人々の「非安全」から「安全」を確保する人間の安全保障を考える。
報告:針間礼子(Mekong Migration Network, Regional Coordinator 「ミャンマーの紛争と強制徴兵、そしてタイへの移民における課題」
報告:甲斐田万智子(国際子ども権利センター(C-Rights)代表理事、文京学院大学非常勤講師)「カンボジアにおける少女と若年女性に対する人権侵害~ジェンダーに根差した暴力(GBV)」
討論:島崎裕子(東海大学)
司会・討論:齋藤百合子(大東文化大学)
9:00-11:30 部会2
自由論題部会
報告:小阪真也(早稲田大学)「頑強な不処罰と『非司法的』な正義の興隆:ネパールとインドネシアを事例に」
報告:Agota Duro (ドゥロー・アーゴタ)(広島女学院大学)‘Challenges to Japanese-South Korean Cooperation to Return the Remains of Korean Forced Laborers Who Died in Wartime Hokkaido’
討論:クロス京子(京都産業大学)
討論:森本麻衣子(青山学院大学)
司会:宮下大夢(名城大学)
11:30-12:00 昼休み
12:00-14:00 分科会
14:10-15:20 総会
15:30-18:00 部会3(企画委員会企画)
「ジェンダー、人種、階級、グローバル経済等からみたジェンダー暴力:アフリカに焦点を当てて」
第三世界で生じるジェンダーに基づく暴力をめぐっては、「野蛮な国で家父長的な男性たちに虐げられている女性」という新植民地的なまなざしの存在が指摘されてきた。本部会ではアフリカに焦点を当て、ジェンダー、人種、階級、グローバル経済などに着目するインターセクショナリティの視座からジェンダー暴力をもたらす複合的要因を探り、ジェンダー暴力の維持・再生産を止めるための視座や方途について議論する。
報告:戸田真紀子(京都女子大学)「アフリカにおける家父長制とSGBV: 歴史的観点から」
報告:松岡由美子(東京外国語大学博士前期課程)「ルワンダにおけるジェンダー平等政策が国内NGOに与えている功罪」
討論:榎本珠良(明治学院大学)
討論:米川正子(神戸女学院大学)
司会:土野瑞穂(明星大学)
10月27日(日)
9:00-11:30 部会4
「地球/大地とヒトの関係から考える平和」(「気候変動と21世紀の平和」プロジェクト委員会企画)
ウクライナとガザと危機が続いており、21世紀も四半世紀を過ぎようとしているが、「戦争」が止む気配さえない状況が続いている。こうした袋小路的状況は、前世紀からの経済活動の膨張に起因する「もう一つの戦争」である「地球/大地への戦争」が被さる形でより複雑かつ困難な状況を作り出している。
気候変動問題というのは、この地球/大地への戦争の一つの現れ方として理解できよう。というのも、地球/大地の「天然資源」を徹底的に抽出し、それを文明の利器を通して大気に排出してきたからである。こうした状況の根底には「命の序列化」という問題が横たわっている。そこには、(1)ヒトがヒトを「モノ(ノン・ヒューマン)」のように処分していくという問題系、(2)ヒトが「モノ」を文字通り道具として使い倒してきたという問題系、(3)「モノ」がエージェンシーを備えて立ち上がってくるという問題系、これらが複雑に絡み合っている状況があると言える。平和学には、命の序列化によって生まれている「平和ならざる状態」を理解できるよう言語化し、平和を再創造するための糸口を示すことが期待されているのではないだろうか。本部会では、これらの諸論点が交差している複合的状況について平和を創り出すうえで、「地球/大地」に向き合う際、ヒトはどのような役割を果たすことができるのか」について考える機会としたい。
報告:深谷舜(東京外国語大学大学院博士後期課程)「「汚染の政治」を越えるために:政治理論の盲点」(仮)
報告:蓮井誠一郎(茨城大学)「IPCC評価報告書のもつ平和論と求められるエネルギー平和」(仮)
報告:塚原東吾(神戸大学)「気候変動論におけるデジタル・フンボルト主義とデータレスキュー―地球システム科学における人文学の役割」(仮)
討論:毛利聡子(明星大学)
討論:高橋博子(奈良大学)
司会:前田幸男(創価大学)
9:00-11:30 部会5
自由論題部会
報告:中沢知史(立命館大学)「ラテンアメリカにおける平和博物館の意義・現状・課題―ウルグアイを事例として―」
報告:島本奈央(大阪大学大学院博士後期課程)「自決権とマイノリティの権利、先住民族の権利の連関性」
報告:工藤幹太(北海道大学大学院博士後期課程)「パレスチナのオリーブ伐採に見る記憶虐殺としてのイスラエル土地政策」
討論:福島在行(平和のための博物館市民ネットワーク)
討論:上村英明(恵泉女学園大学)
討論:金城美幸(立命館大学)
司会:田村あずみ(滋賀大学)
11:30-12:00 昼休み
12:00-14:00 分科会
14:10-16:40 部会6(企画委員会企画)
「冷戦期の東アジア国際関係と米国」
本部会は歴史学・国際政治史の観点から冷戦期の米国による東アジア政策とそれに対する地域の反応への問い直しを通して、今日の東アジアと米国の関係について理解を深めることを目指す。
高報告は1980年代初め、従来殆ど接触のなかった中韓間の関係が徐々に改善し始めた過程における米国の影響に焦点を当てる。米国の台湾への武器供与問題がこの過程にどのような影響を与えたのか、そして、中韓関係改善も目的の一部とするものの、より包括的に朝鮮半島情勢の安定を維持するための枠組みである三者会談、四者会談、クロス承認が米中間でどのように話し合われたのかを、日米韓台のアーカイヴスの史料と中国の公刊史料を用いて明らかにする。
井上報告は、米国政府の対沖縄政策の変遷を冷戦のみならず脱植民地化および米日トランスインペリアルヒストリーの文脈に位置付け再構成する。新史料に基づく米軍統治期の検証を基軸に、その後の沖日米関係の展開を整理する。
それぞれの報告に対して、討論者の李は韓国、小松は沖縄の事例についてコメントしながら、両者の比較を試みる。以上の議論から米国とアジアの関係を再考することで、これからの平和の実現に必要な条件を論究する。
報告:高賢来(関東学院大学)「1980年代前半の中韓関係と米国の影響」
報告:井上史(早稲田大学)「冷戦、脱植民地化、米日トランスイペリアルヒストリーのなかの沖縄」(仮)
討論:李泳采(恵泉女学園大学)
司会・討論:小松寛(成蹊大学)