2025年 秋季研究集会プログラム

 

大会テーマ「戦後80年と平和の現在——暴力の連鎖を超える知と実践を探る 」

 

 2025年 11月1日(土)・2日(日)

会場:名古屋学院大学しらとりキャンパス (対面+オンラインのハイブリッド開催)


(フルペーパーは大会終了後、1~2週間ほど掲載されます)


 <開催趣旨>

 2025年、戦後80年を迎える世界において、複合的な危機はますます深刻になっている。軍事的緊張の高まり、気候変動による生活基盤の破壊、植民地主義の残滓、グローバルな不平等などは、それぞれが孤立した問題ではなく、社会・経済・政治・文化的な権力構造と交錯しながら、人々のいのちと尊厳を脅かしている。戦後秩序のもとで築かれようとしてきた平和の基盤は、いま大きく揺らぎ、暴力の連鎖は日本国内外においても現在進行形で続いている。とりわけ日本にとって戦後80年は、第二次世界大戦の加害と被害、そして戦後の平和国家としての歩みを問い直す重要な節目である。この歴史的文脈において、私たちに問われているのは、こうした暴力をいかに食い止め、変革していくかである。それは、単なる過去の反省や記憶の継承にとどまらず、現在進行中の暴力のリアリティに応答し、未来に向けた希望の可能性を切り拓く営みでなければならない。

 そこで本集会では、こうした危機に対する批判的視座を共有し、暴力の根源に迫りながら、平和を創造する道を探るべく、3つの大きなテーマから成る7つの部会を企画した。

 第一のテーマは、地域社会から考える暴力と平和である。部会3では、政治家による歴史認識をめぐる発言、製造業などに従事する外国籍住民のおかれている状況、日本での官民学の軍事イノベーションへの動員という状況を受けて愛知県が進めるイスラエルとの連携事業といった、本集会の開催校が位置する愛知を舞台に展開されている暴力の分析を通じて、足元から暴力に抗い平和を構築する可能性を探る。部会6では、開催校である名古屋学院大学において現在実施されている平和に関する研究をもとに、ローカリティの形成における宗教の役割とは何かについて、韓国、ハワイ、インドのラダックを事例に地域から立ち上がる平和思想の新たな可能性を追究する。

 第二のテーマは、軍事が内包するメカニズムへの改めての正対である。部会2では軍事的リアリズムの再検討を行うために「極東」における米軍の展開やロシア・ウクライナ戦争などを取り上げ、軍事的合理性と政治判断の位相に注目することで国家という国際政治における伝統的アクターとその軍事行動を再検討する。部会7ではパレスチナに対する暴力を主題として、その発生する背景を踏まえた上で暴力を止めるための方法論を議論する。

 第三のテーマは、ジェンダーと構造的暴力の接点である。部会1では、植民地主義および外国軍駐留とジェンダー暴力の現在に焦点を当て、沖縄、アフガニスタン、東ティモールを事例に、様々に折り重なる構造的暴力を経験してきた女性の経験を、インターセクショナリティの観点から考察する。部会4では、サステイナビリティや脱成長の議論とジェンダーを結びつけ、「いのちの持続可能性」を軸に、暴力なき共生の可能性を探る。

 各部会は「過去とつながる暴力の現在」と、それを断ち切る想像力を共通の基盤として共有している。本集会を通じて、戦後80年という時間的文脈を踏まえ、継続する暴力を断ち切る方途・方略を再構築すべく、知と実践をつなぐ批判的対話の場を創出することを目指す。

開催校理事 金城美幸

第26期企画委員長 土野瑞穂

 

11月1日(土)

 

9:00-11:00 部会1(開催校企画1)

「平和学におけるインターセクショナリティ―植民地主義と外国軍駐留を生きる女性の経験から」

(共催:開催校+ジェンダーと交差性PT+「ジェンダーと平和」分科会+「植民地主義と平和」分科会)

 ウクライナ侵攻、パレスチナのガザ地区へのジェノサイド、日本での軍事化が同時に進む現在、世界の女性たちを取り巻く暴力も複雑な形で拡大している。植民地主義、占領、長期的な軍隊駐留、軍事化、人種主義、家父長制による暴力が絶えず再編されており、各地の女性たちは日々それらの暴力と対峙しながら、暴力からの解放を求めてきた。その経験は、ジェンダー、人種、階級、エスニシティ、宗教、セクシュアリティ、アビリティなど、さまざまに編成されるカテゴリーが交差する、インターセクショナルな経験だと言える。

 本部会では、沖縄、アフガニスタン、東ティモールにおいて、植民地主義および外国軍隊の駐留を経験した女性たちの経験に焦点を当て、そのインターセクショナルな経験を具体的に検討する。

 「インターセクショナリティ(交差性)」という概念は、幾重にも折り重なる米国の黒人女性の抑圧の経験を語るためにブラック・フェミニストの運動のなかで生まれた。以降、クレンショウやコリンズらによる理論化に向けた研究が進み、日本でもマイノリティ女性の経験に接近するための概念として使われてきた。それらの研究状況を踏まえつつ、本部会では、インターセクショナリティの理論的考察の手前で、平和学の立場からそれぞれの地域の女性たちの経験の固有性や共通点を探り、平和学会におけるインターセクショナリティの議論の第一歩としたい。

 

報告:秋林こずえ(同志社大学)「外国軍長期駐留とインターセクショナリティ―沖縄フェミニスト平和運動」(仮)

報告:清末愛砂(室蘭工業大学)「アフガン女性のから語りから差別と暴力の重層性を考える」(仮)

報告:古沢希代子(東京女子大学)「東ティモールのポストコロニアル―移行期正義の崩壊と抵抗」(仮) 

討論:藤岡美恵子(法政大学) 

討論:石山徳子(明治大学)  

司会:近江美保(神奈川大学)

 

11:00-12:00 昼休み

 

12:00-14:00 分科会

 

14:10-15:00 総会

 

15:10-17:10 部会2(企画委員会企画1)

「『軍事的リアリズム』への批判的検討」

 ロシア・ウクライナ戦争以降、軍事戦略上の合理性、すなわち「軍事的リアリズム」に着目して国家の行動・選択を分析する傾向が強くなったように思われる。他方で軍事的オプションは純粋に選択肢として提示されるものの、そのメリットとデメリットを換算した結果、政治的判断としては妥当な選択ではないとする見解も散見される。このような傾向を今日の中国に当てはめれば、前者は海洋進出、後者は「台湾有事」に関する分析などがその例として想起されよう。果たして軍事的リアリズムに基づく観点から国家の行動を分析することはどの程度まで可能であろうか。そこで本部会では軍事的合理性と政治的判断の関係性に着目しながら、「軍事的リアリズム」の持つ有用性と限界について議論を行う。

 

報告:川名晋史(大東文化大学)「『極東』有事における米軍基地ー政治と軍事の往還」(仮)

報告:小泉悠(東京大学)「軍事力の効用と限界」     ※非会員

討論:遠藤誠治(成蹊大学)

討論:青井未帆(学習院大学)

司会:小松寛(早稲田大学)

 

11月2日(日)

 

9:30-11:30 部会3(開催校企画2)

「地域から平和を考える」

 ウクライナ戦争やパレスチナ問題に象徴されるように、世界各地で直接的な暴力が広がる中、平和研究の果たすべき役割はますます重要になっている。一方で、個々の問題の大きさに圧倒され、どのようにアプローチし、平和を築いていけばよいのかとまどうこともあるかもしれない。しかし、わたしたち一人ひとりが、みずからの生活圏から問題に取り組むことの重要性は、改めて強調されるべきである。とくに、グローバリゼーションが進み、人びとの相互依存が深まる現代において、地域からのアプローチに意味があることはたしかである。

 本部会では、開催校が所在する愛知を起点に、地域からみえる課題を考察することを通じて、平和に関する地域と世界のつながりを再確認したいと考えている。一人ひとりがみずからの生活圏の中から平和に向けた取り組みを進めるための手がかりとなれば幸いである。

 

報告:金城美幸(名古屋学院大学)「『防衛イノベーション』時代の軍事と市民生活——愛知県とイスラエルのスタートアップ連携事業を中心に」(仮)

報告:加治宏基(愛知大学「歴史に挑戦する政治発言―日中関係における歴史認識問題」

報告:近藤敦(名城大学)「愛知県と移民・難民問題」※非会員

討論:飯島滋明(名古屋学院大学)

司会・討論:阿部太郎(名古屋学院大学)

 

9:30-11:30 部会4(企画委員会企画2)

「いのちの持続可能性をいかにして実現するか」

 本部会では、サステイナビリティ、環境、気候変動、ジェンダー、フェミニズムの視点から、スローガン化してきたSDGsの達成が困難である現実と、それに伴って生じる暴力構造に目を向け、とりわけ近代以降の都市空間の形成や経済成長を至上とする社会構造が、自然や人々の暮らしに与えてきた暴力性を問い直す。資本主義的開発の中でいかに持続可能性を実現するか、またローカルな地域社会に根ざした草の根の実践や脱成長・ローカリゼーションの思想に、どのような可能性があるのかを検討することを通じて、「いのちの持続可能性」という根源的課題に向き合い、暴力構造の可視化とその超克のための理論的・実践的枠組みを多角的に探る。

 

報告:木藤健二郎(九州大学)「持続的で居心地のよい都市とはどんなものか?だれがつくるのか?-ノルウェーの事例を参考に-」※非会員

報告:中野佳裕(立教大学)「玉野井芳郎の思想における『場所』『グローバル』『プラネタリー』の位相―関係的脱成長への寄与」

討論:大島美穂(津田塾大学)

討論:堀 芳枝(早稲田大学)

司会:土野瑞穂(明星大学)

 

9:30-11:30 部会5 自由論題部会

報告:生田目学文「ベトナム戦争枯れ葉剤被害者家族の生活実態と支援のあり方についての研究報告」

報告:亀井恭祐「広島において是正指導を経験した教師たちのライフヒストリー」

報告:山本剛「ASEAN の平和のための安全保障を問い直す──ラオスの視点から」

討論:福田忠弘(鹿児島県立短期大学)

討論:淺川和也(明治学院大学)

討論:井上浩子(大東文化大学)

司会:毛利聡子(明星大学)

 

11:30-12:00 昼休み

 

12:00-14:00 分科会

 

14:00-16:00 部会6(開催校企画3)

「平和研究の視点から考えるローカリティと宗教」

 本部会では、ローカリティ(地域性)が形成される際に、宗教がいかに関与するかについて考察する。宗教は、単なる信仰体系にとどまらず、社会の構造や価値観、地域のアイデンティティをかたちづくる力をもつものとして機能してきた。宗教的イメージや表現が、地域のアイデンティティ形成にどのように関わるか、また宗教が地域の象徴としてどのように機能し、また表象されるのかを、平和研究の視点を加えて分析する。

 本部会は名古屋学院大学国際文化学部および研究助成「ローカリティ形成における宗教の関与についての学際的比較研究会」との共催である。

 

報告:神山美奈子(名古屋学院大学)「韓国の民衆とキリスト教——『民衆神学』とフェミニズムの視点」

報告:増田あゆみ(名古屋学院大学)「多数派日系移民のマイノリティ性——ハワイにおけるローカライゼーションとの関連で」

報告:宮坂清(名古屋学院大学)「ラダックにおける仏教に基づく多層的ローカリティ」

討論:佐竹眞明(名古屋学院大学)

司会・討論:鹿毛敏夫(名古屋学院大学)※非会員

 

14:00-16:00 部会7 (企画委員会企画3)

「圧倒的暴力に私たちに何ができるか―パレスチナ問題から考える」

 2023年10月7日以降、パレスチナのガザ地区では剥き出しの圧倒的暴力が行使されている。飢餓や強制移動、大量虐殺が報じられながら、世界も、私たちもそれを止められずにいる。本部会ではパレスチナを知る実務経験者からの問題提起と、私たちが平和をつくるために何ができるのか、パレスチナ問題を他者化せず自分ごととして考えるために非暴力コミュニケーション(NVC)の実践から考える。

 

報告:金子由佳(立教大学兼任講師・国際NGO職員)「パレスチナの暴力を止めるための営み」

報告:西東万里(非暴力コミュニケーション(NVC)トレーナー、朗読家)「紛争解決のための修復的正義の実践―私とあなたの間の平和をつくる」(仮題)

討論:今野泰三(中京大学教養教育研究院)

討論:調整中

司会:齋藤百合子(大東文化大学)