2026年 春季研究大会プログラム

 大会テーマ 「分断の時代に平和を構想するー平和学の役割と可能性」 

2026年 5月16日(土)・5月17日(日)

会場:青山学院大学

 

(フルペーパーは大会終了後、1〜2週間ほど掲載されます)

 開催趣旨 

 平和学は、暴力や脅威の所在とあり方を捕捉し、その解消にむけて営為を重ねてきた。そして戦争や紛争、または災害等からの復興過程においても、筆舌に尽くしがたい被害が、人間によって生み出される現実にも向き合ってきた。あるいは自らが、多様化する暴力と脅威の主体ともなることを自省的に討究してきた。しかし近年、こうした平和学のあゆみを否定するかのように、民主的手続きと多様性を軽視するポピュリズムが地球大にひろがり、それと呼応しながら戦火は世界各地へと拡散、こうして分断と破壊が地球システムを覆いつくそうとしている。

 翻ってみれば、越境的対話や交流を通じて互いの権利を認め合い、慈しみ合うヒューマニティを礎とする平和学の意義と可能性が、今日ほど問われたことはない。今回の研究大会で実施される日中平和学対話企画は、この困難な時代の突破を目指す挑戦である。本企画は日本平和学会が過去10年にわたり中国側カウンターパートと粘り強く育んできた信頼と協働の上に立脚し、学術研究と教育実践という異なる次元を架橋する。相互理解を支える知的対話の蓄積と、未来世代を育む教育の現場における実践を通じて、不確実性を増す世界情勢のなかで平和を単なる理念や標語にとどめるのではなく、具体的な知と行為として社会に根づかせるための条件を多面的に検討する。専門分野を横断する研究実践や、教育現場に根ざした対話の積み重ねこそが、継続的に構築・更新される「関係性としての平和」の基盤に他ならない。私たちはこうした認識を共有しつつ、いまこの時代において平和学の視座に立つことの意義と可能性をあらためて問い直す。

 これを踏まえ、企画委員会企画では、平和の実践を制約し、あるいは歪めてきた社会的条件に目を向け、現代社会において平和を妨げている要因を批判的に検討する。平和を脅かす問題を個別の事件や一時的な現象としてではなく、制度や規範、社会関係の中に組み込まれた構造的・文化的暴力として捉え直すことを共通の視座とする。人身取引やジェンダーに基づく暴力、民主主義の後退や排外主義の広がりをめぐる企画は、格差や不安が差別や排除へと転化する現代社会の力学を検討し、国際協調や市民社会、多文化共生の可能性を再検証する。加えて自由論題部会は「豊かさ」という概念を文明論の視座から再検討し、暴力の発露を伴ってきた現代世界の統治体系そのもののあり方を論究することで、平和学の新たな地平を拓いていく。

 本大会は、理論研究と教育実践、制度分析と現場の経験を重ね合わせながら、平和を可能にする条件とそれを妨げてきた要因を多角的に検討する。学術的対話と実践的知見を往還させ、分断が深まる現代社会において平和をいかに構想し続けることができるのかを問い直したい。

 

開催校理事 森本麻衣子

 第26期企画委員長 土野瑞穂

 

 

 

5月16日(土)

9:00-11:00 部会1(開催校+国際交流委員会企画①)

日中平和学対話企画1・学術篇 ラウンドテーブル「東アジアにおいて、平和学に軸足を置くとはいかなることか」

 

 平和学は多様な専門分野と接続しながら実践されてきたが、その担い手の多くは、それぞれの固有の学問的基盤を保ちながら、あえて平和学を重要な参照枠として研究を行ってきた。中国からのゲストを含む本企画の報告者もまた、異なる専門領域に立脚しつつ、複雑化する国際環境のもとで現代世界を研究するにあたり、平和学に立つことの意味を実践的に引き受けてきた点に共通性をもつ。各報告を通じて、平和学に立脚することが研究対象や方法にどのような重心の置き方をもたらしてきたのかを検討するとともに、平和学が国境を越えた研究者間の対話を支える共通言語として、いかに機能しうるのかに注目する。さらに、不確実性を増す日中・東アジア、ひいては世界情勢のなかで、学術的対話の積み重ねが、相互理解と信頼関係を能動的に形成し、研究者間外交とも言いうる知的交流の回路として今後いかに育まれていくのか、そのための条件は何かを問い直したい。過去10年にわたり日中の研究者間で継続的に積み重ねられてきた平和学対話の蓄積を踏まえつつ、学知の往還が実践的な平和構築へと接続されていく可能性を、次の議論へと橋渡しすることを目指す。

 

報告:Sun Chaojing(南京大学)  “The Past, Present and Future of Peace Studies in China”

報告:Tao Fuwen(上海師範大学)“Mutual Learning and Exchange of Contemporary Chinese and Japanese Visual Culture”

報告:シン・ヒョンオ(立命館大学)“Reconstructing the Constitutional Right to Live in Peace from a Peace Studies Perspective: Conscientious Objection in South Korea and the “Freedom Not to Participate in War””

討論:森本麻衣子(青山学院大学)

司会:Liu Cheng(南京大学)

 

※本部会に参加できるのは会員のみとなります。

※情勢により、中国側参加者はオンライン参加となるなど変更の可能性があります。

 

9:00-11:00 部会2(自由論題部会)

報告:ビコーニャ・アリナ(北海道大学大学院博士後期課程)「博物館が市民に提供するシベリア抑留のナラティブ:帰還者たちの記憶ミュージアムと舞鶴引揚記念館を中心に」

報告:福田菜月(香川大学大学院博士後期課程)「平和構築におけるジェンダーポリティクス:ルワンダにおける相続権確立をめぐる規範のローカリゼーション」

報告:浜 恵介(大阪大学大学院博士後期課程)「地方自治は核兵器を拒否できるのか:非核神戸方式50年と米軍艦船の入港」

討論:高部優子(明星大学)

討論:土野瑞穂(明星大学)

司会・討論:小松 寛(早稲田大学)

 

11:00-12:00 昼休み

 

12:00-14:00 分科会

 

14:10-15:00 総会

 

15:00-16:00 第10回 平和賞・平和研究奨励賞 授賞式 

 

16:10-18:10 部会3(開催校+国際交流委員会企画②)

日中平和学対話企画2・教育実践篇 シンポジウム「平和を教える・学ぶ・生きる──教育実践報告」

 本企画は、日中両国において、学校教育、市民教育、非営利活動など多様な現場で行われている平和教育の実践を共有し、次世代における「平和の主体」を育てるための具体的な試みや課題について意見交換を行うことを目的とする。教育現場での実践に光を当てることで、政治的・外交的な文脈から一定の距離を保ちつつ、人と人との接点に根ざした平和構築の可能性を確認する場としたい。特に、緊張をはらむ国際環境のもとにおいても、教育という長期的視点からの対話がいかに継続可能であるのかを示すことを重視する。討論は参加者間の相互理解の促進を主眼とし、各現場における経験や工夫、ならびに直面している困難を共有するかたちで進行する予定である。

 

報告:神 直子(NPO法人ブリッジ・フォー・ピース)「戦争体験者のビデオ・メッセージを用いた平和教育実践ー次世代の「平和の主体」育成を目指して」

報告:Li Huiling (南京大学)「『ラーベの日記と平和都市』チームによる平和活動:記憶と発信の実践的アプローチ」

報告:狩俣日姫(平和教育ファシリテーター)「若者とともに問い直す平和ー沖縄における体験型教育旅行の実践」

報告:藤本晃裕 (青山学院高等部)「高等学校の平和教育におけるPBL型学習の実践と可能性」

報告:Shang Yuanyuan(南京外国語学校)「南京外国語中高等学校における平和教育」

司会:奥本京子(大阪女学院大学)

 

※情勢により、中国側参加者はオンライン参加となるなど変更の可能性があります。

 

5月17日(日)

9:00-11:00 部会4(企画委員会企画①)

「人身取引と平和:グローバル社会における人権侵害としての構造的暴力と積極的平和の可能性」

 2025年11月、東京・文京区において12歳のタイ人少女が被害に遭った人身取引事件が発覚した。この事件は、東南アジアに広がる人身取引ネットワークの「目的地」の一つとして日本が位置づけられてきた現実を可視化すると同時に、グローバル社会における深刻な人権侵害としての人身取引問題を私たちに突きつけた。

 人身取引は、単なる個別犯罪ではなく、ジェンダー不平等、貧困、移動の不平等、買春を容認・黙認する社会規範などが交差する中で生み出される構造的暴力である。とりわけ女性や少女に対するジェンダーに基づく暴力(GBV: Gender-Based Violence)は、人身取引の温床であると同時に、社会に深く埋め込まれた人権侵害の一形態である。本企画では、このようなジェンダーに基づく暴力(GBV)を中核とする構造的性暴力を、グローバル社会における人権問題として捉え直し、それに抗う実践を積極的平和の構築に向けた試みとして位置づける。人身取引や性暴力の現場に関わり、構造的暴力の是正を目指してきた実践者・研究者の報告を通じて、平和学の視点から、人権を基盤とした平和構築の可能性について議論を深めたい。

 

報告:中村文子(山形大学)「人身取引はなぜなくならないのかー構造的要因をめぐる考察」

報告:仁藤夢乃(一般社団法人Colabo代表理事、明治学院大学国際平和研究所研究員)「Colaboの活動から見る構造的暴力としての性搾取と平和」

討論:古沢希代子(東京女子大学) 

司会・討論:齋藤百合子(大東文化大学)

 

9:00-11:00 部会5(自由論題部会パッケージ企画)

「豊かさの再定義は可能か-ポスト成長時代における文明論的平和学に向けて」(「気候変動と21世紀の平和」プロジェクト委員会企画)

 1972年の『成長の限界』以降、「開発」や「成長」をめぐる批判的思考は、モノや生活世界に根ざした研究、さらにはポスト開発論へと展開され、近代的開発パラダイムの限界を繰り返し指摘してきた。しかし、こうした知的蓄積にもかかわらず、「豊かさ」をGDPに代表される成長指標によって捉える枠組みは大きく揺らいだとは言いがたい。2015年以降、持続可能な開発目標(SDGs)は開発批判を部分的に取り込みつつも、成長中心の想像力を制度的に温存してきた側面がある。

 他方で現在、地球システムの管理困難性、科学的合理性への信頼の揺らぎ、大国の帝国的振る舞いの再顕在化など、近代的統治システムが前提としてきた条件そのものが崩れつつある。こうした状況は、「緩慢な暴力(slow violence)」が長期的に蓄積してきた帰結とも言えるだろう。

 この転換期において、平和学は、暴力の抑制や紛争管理にとどまらず、いかなる生の組織化や価値観が暴力を常態化させてきたのかを、文明論的視座から問い直す必要に直面している。本部会では、「豊かさ」を指標・制度・実践・関係性といった複数の次元から捉え直し、近代システムというOSの妥当性を再検討する。その上で、経済学、国際政治学、人類学などの視点を交差させながら、別様の実践は可能かを考える場としたい。

 

報告:原田太津男(龍谷大学):「経済学はなぜ環境問題に向き合えないのか:「成長」と負債の関連を問う」

報告:安高啓朗(立命館大学):「「文明」における豊かさから多元世界における豊かさに向けて」

報告:前田幸男(創価大学):「人新世のアナーキカル・ソサイエティ:ポスト自然主義、贈与、学習Ⅲ」

討論:石井正子(立教大学)

討論:横山正樹(フェリス女学院大学)

司会:鴫原敦子 (東北大学)

 

11:00-12:00 昼休み

 

12:00-14:00 分科会

 

14:10-16:10 部会6(企画委員会企画②)

「後退する民主主義と拡張する権威主義:なぜ「リベラル」は凋落したのか」

米国のトランプ政権下で、民主主義の崩壊が加速している。欧州でもポーランドやハンガリーで権威主義が台頭し、フランス、ドイツ、イタリア、オランダでも極右政党が躍進している。スウェーデンの独立調査機関V-Dem研究所の報告書『民主主義リポート2025』によると、2024年時点で権威主義にある国・地域の数は、民主主義陣営のある国・地域の数を22年ぶりに上回った。 

1995年〜2000年、新自由主義的な経済のグローバル化に対抗する反グローバリゼーションの大きな流れの中で、権威主義政権が次々に倒れ、不平等を是正し民主化が進むと考えられた。しかし、2000年代以降、グローバル・サウスにおける民主化は停滞、東アジア地域では権威主義体制が持続し、欧米でも右派勢力が台頭している。本来なら、人々の不満は新自由主義体制に向かうはずである。ところが、深刻化する格差の是正ではなく、閉塞感、疎外感の中、人々は差別や偏見、移民排斥を扇動する右派ポピュリズムに絡め取られている。こうした世界的な現象の根底には欧米における「リベラル」の凋落があるのではないだろうか。本部会では、民主主義が後退し、権威主義が拡張する状況が、国際協調や平和構築、市民社会、平和運動へ及ぼす影響について議論を深める。

 

報告:三牧聖子(同志社大学)「建国250周年のアメリカ:トランプ2.0と変わる世界、変わるアメリカ」

報告:浪岡新太郎(明治学院大学)「フランスにおけるイリベラリズムと市民社会の抑圧:2021年反分離主義法を通じた「結社の自由」の制限」

討論:上村雄彦(横浜市立大学)

討論:清水奈名子(宇都宮大学)

司会:毛利聡子(明星大学)

 

14:10-16:10 部会7(企画委員会企画③)

「平和学から考える日本の排外主義と多文化共生」

 2025年12月時点における在留外国人は約413万人(総人口の約3.4%)となり、過去最高を更新している。少子高齢化の進行に伴い、2040年には在留外国人の比率が10%を超えるとの推計も示されている。一方で、ソーシャルメディアを中心に、外国人をめぐるデマやヘイトスピーチといった排外主義的な言説が拡散し、社会的対立や分断を助長する傾向がみられる。これらの言説は、差別や排除を正当化する文化的暴力として機能し、構造的暴力や直接的暴力へとつながる危険性を孕んでいる。排外主義の拡大を抑制し、暴力の連鎖を防ぎながら、多文化共生社会をいかに実現していくことが可能であろうか。本企画では、平和学の視点から、日本における排外主義と多文化共生をめぐる課題について、理論と実践の双方の観点から幅広い議論を行う。

 

報告:小川玲子(千葉大学)「排外主義によって失われるもの」

報告:毛受敏浩(関西国際大学)「移民1000万人時代に向かう日本と排外主義の壁」

討論:佐竹眞明(名古屋学院大学)

司会・討論:宮下大夢(名城大学)