2018年10月28日(龍谷大学)トレーナーズトレーニング やり⇔とり力を育てる:高校の新設必修科目『公共』に向けて

授業に使えるパッケージ

ファシリテーター:暉峻僚三、奥本京子、ロニー・アレキサンダー

観察・評価:杉田明宏、鈴木晶、山根和代、高部優子

 

2022 年より、高校の教育課程において、「現代社会」に代わって「公共」が必修科目として新設されることとなった。2018 年度から小・中学校では週に 1 回の「道徳」が教科化され、「公共」においては、「現代社会」で扱っている“基本的人権の保障”や“平和主”は削除され、高校での“道徳教育化”が懸念されている。

「公共」の授業で使うことができる教材は、現場の教員からのニーズも高いことから、授業でつかうことを想定した、平和な共生社会をつくってゆく国家に回収されない主体としての個を養うことに資する平和教育素材を目的とした。

今回の素材は、暉峻委員が考案し、メインファシリテーターを務めた。奥本委員、ロニー委員がサブファシリテーター、その他の委員は客観的なワークショップの評価をするため参加者となった。

今回のワークショップは、公を考えるために、参加者に年収が異なる架空のコミュニティの住民になってもらい、そのコミュニティで誰もが使えるもの(例えば病院、図書館、学校など)を決めるというワークショップである。

アイスブレーキングでは、「アリとキリギリス」のイソップ寓話を思い出してもらい、教室の端から端へ紐を張り、両端を①「キリギリスが冬を越せないのは自己責任だ」、②「飢え死にするというのはひどすぎる、助けるべき」とし、自分の考えに近いポジションに立ってもらい、それぞれ意見を聞いていった。「アリとキリギリス」は直接的な公の話ではないが、セーフティーネットなど公の基本となるものに意識を向けるために行った。

次いで、6 人以上でテーブルに座ってもらい、年収、百万円から 5 千万円まで 6 段階に分かれてもらい、自分たちの地域に住んでいる誰もが無料で利⽤できるものを、別紙のイラストから選んでもらう。合意できたものをリスト化し、コストを書き入れてもらった後、合計額を、どの収⼊の世帯が、いくらずつ負担するのが⼀番「正しい」かを決めてもらい、なぜ「正しい」のかを話し合ってもらった。

最後に、自分たちのプランに名前をつけてもらい、1.プラン名、2.合計額、3.なぜその負担が正しいのか、4.リアルな現実とのギャップをグループごとに発表してもらった。

プラン名は「みんなが納得、持続可能な平等社会」「善意ある高額所得者が支えるホームレス0社会」「助け合い、プレッシャープラン」などが出たが、現実社会とのギャップをどう埋めていくのかという疑問も出された。

参加者は約 20 人で、高校生の参加が多かったのは、高校の授業で使うことができる教材を、と考案したワークショップなので、大変ありがたかった。

感想としては、あっという間に時間が過ぎた、時間、議題の複雑さの度合いなどがバランスがとれていて、ゆっくり、じっくり話し合えたような印象があり、高校生の比率が半分ほどで、主役になれる条件があったように感じた、日本で「平和教育」というと「戦争と平和」について考えることをイメージする人が多いが、このワークショップは健全な社会をみんなで作っていくプロセスで、これも「平和教育」なのだということを実感した、などである。

高校生の感想は以下の通りである。

・実際の社会でいきなり平和につながることを考えるよりも、空想の街で考え、案を出していく方が創造しやすかったりアイデアが出たりしてつながりやすいなと感じました。

・少人数のグループワークは意見が出しやすく良かったです。また内容もフィクションからリアルにつなげていく形は様々な点に気づきやすかったです。

・グループで行ったことで、何を目標にこれを学んでいるのか、しっかり理解しながら学習することができました。

 

今回から、委員の中でファシリテーターと参加者に徹してワークショップを観察、分析するメンバーに分けた。後者の委員から、ゲーム感覚的に見えるのが若者に受け入れやすい、

お金という身近なものを操作することのやりやすさなどにより、時間の経過が早く感じたとの感想があった。また全員が考えざるを得ないワークショップだったという点や、最後にプラン名をつけることにより、話し合いのまとめを言語化したことも高評価であった。ただ、ファシリテーターとしては難しかったとの感想もあり、企画の内容もさることながら、大きな枠組みとして委員会が何を目的としてワークショップを行っているのか言語化、体系化していく必要を感じた。

今回使用した素材は平和学会の平和教育プロジェクト委員会のページからダウンロード可能である。

(高部優子)