2019年11月3日(新潟県立大学)トレーナーズトレーニング 民主主義を機能させる「やり⇔とり力」 “シカト力”を超えてActive citizenになるために

ファシリテーター:奥本京子(大阪女学院大学)、笠井綾(宮崎国際大学)、高部優子(横浜国立大学)、暉峻僚三(川崎市平和館)、中原澪佳(新潟大学)

リサーチャー:鈴木晶(横浜市立東高校)、山根和代(平和のための博物館国際ネットワーク)

 

今回のワークショップのねらいは、「平和な社会を築く Active citizen になるために、自らの、そして他者の被害者性に気づき、『シカト力』を打ち破り、民主主義のベースである『やり⇔とり力』を身につける」とした。

平和教育プロジェクト委員会は、2019 年 6 月の福島のワークショップからアクション・リサーチを試みている。アクション・リサーチは現場の課題を克服するため、調査者と実践者が互いに協働し、実践と評価を繰り返す過程である。前回のワークショップから浮かび上がった課題、論点について委員会内で議論をし、以下のような改善を行った。

・ワークショップの目的が参加者と共有できていたか2012 年から 3 期、6 年間のプロジェクトとして始まった平和教育プロジェクト委員会は、期ごとにテーマを決め、また年に 2 回、学会内で行われるワークショップもねらいを設定している。しかし参加者にそれらや使用する言葉の意味などは十分共有できていなかった。

敢えて共有しない手法もあるが、今回はワークショップの最初に趣旨説明を行った。また事前に参加者がワークショップの詳細を知ることができるようチラシを作成した。

 

・ファシリテーターの権力性

前回の福島で行ったワークショップは体を使うもので、「言葉を使うことによる凝り固まった“定型”を壊せる」「自分に変化があった」など肯定的な意見が多かったが、違和感を覚えた参加者もいた。ファシリテーターは「参加しなくても大丈夫」というメッセージを出し、サブのファシリテーターがフォローはしたが、改めてファシリテーターの、その場で持つ自らの力に、より敏感である必要性を感じた。今回は、その点に留意し、参加者がその場で自分の気持ちを吐き出せるよう、振り返りの時間を十分とるような構成にした。

23 期は、教育者やファシリテーター、平和運動で役割を担う人を対象としたトレーナーズトレーニングを試みたが、むしろ委員会のファシリテーターである私たちのあり方そのものを問い直し、トレーニングするものでもあった。

アクション・リサーチは、ともすれば単発に終わってしまいかねないワークショップに継続性をもたらし、参加者の声を聴きながら、委員会メンバーで振り返り、課題を議論する機会を作ることが出来た。今回 2019 年 11 月の新潟が 23 期の最後のワークショップだったのでアクション・リサーチが行えなかったが、平和教育のワークショップには有用であったと考える。

 

ワークショップは以下の通りに実施した。

 

1.導入:趣旨説明(5 分)

Active citizen(行動する市民)になることを阻害する“見ているのに、見ていない”。

そうした「シカト力」を克服するためにも、「やり⇔とり力」を育てたい。私たち一人ひとりが考え、語り交わし、社会に働きかけ、合意を形成し、望む社会を作っていくのが民主主義社会である。平和構築、社会構築は「やり⇔とり」の繰り返しの結果である。今回のワークショップでは、自分の言いたいことを頭の中で言語化し、言葉あるいは言葉以外で表現するトレーニングを行いたい。

 

2.アイス・ブレーキング:4 マス自己紹介(10 分)

A4 の用紙を四つ折りにし、それぞれ1名前2所属3今日のワークショップへの期待を書きグループ内で共有。(4は最後に感想を書くため空欄)。

 

3、アニメーション『クリスマスのオフィスにて』視聴:「被害者性」を意識する(10 分)

ヨハン・ガルトゥングの暴力概念を、職場のパワハラで表現したこの作品から、様々な暴力について、自分の被害者性について、またその暴力をシカトしている人に留意して視聴してもらう。

 

4.Tree ワーク

4~6 人ぐらいの各グループに、大きな木が描いてある模造紙を1枚配布する。

1 痛みの可視化:根っこにある「被害・暴力」(20 分)

「シカト力」を低減させるために、他人の痛みや被害者性に気づくことも当然大事だが、そのためには自分の被害者性にも自覚的であることが必要であろう。自分の痛みを自覚するために、自分/自分たちの被害・暴力、身近な人の被害・暴力をポストイットに書き、木の根元に貼る。

2 関わらせない「シカト虫」(15 分)

被害・暴力に対する「シカト力」がどこで働いているか、何がその被害・暴力に人を関わらせないのか、シカトさせるものを虫の形のポストイットに書いて、木の幹につける。「シカト」が木を蝕む虫として可視化される。1でそれぞれの「痛み」が出されたが、その痛みを人に伝えられず、抑えてしまう場合もある。何がその痛みの表現を妨げているのか、または、もし他者の痛みに自分が「シカト」しているなら何が自分をそうさせているのか、何が自分を無関係だと思わせるかについても考えて表現する。

3 「シカト虫」を食べる鳥(15 分)

どうすれば「シカト虫」を取り除けるか。鳥の形のポストイットに書く。

4「シカト」がなくなった後の果実(15 分)

鳥が「シカト虫」を咥えて行ったら、その後の木には、どんな実がなるか、どういったこ

とが可能になるか、どんなことが実現するかを、リンゴの形のポストイットに書く。

5.振り返りのプロセス(15 分)

他のグループの木を見てまわる。テーブルにグループから1人だけ残ってもらい説明をする。

今日のワークで感じたこと、気付いたこと、伝えたいことをグループで共有する。

最後に、最初に自己紹介で使った4マスの紙の4に感想を書く。

 

参加者からは「考える対象の幅が広がった。1つ1つの問題の背景までは考えていたけど、実は問題の背景同士が繋がっていて、自分もその中にいると気づいた」「シカトしてしまうのは傷つくのが怖いからかなと思った」「教育は『シカト』を取り除く『鳥』だと思ってたけど、逆に教育によって悪くなっていってるんじゃないか」などの感想があった。

(鈴木晶、高部優子、中原澪佳)